【展覧会】「発掘!福沢一郎 120年めの『再発見』」会場風景

2018年春の展覧会 「発掘!福沢一郎 120年めの『再発見』」 の会場風景をご紹介します。

今回の展覧会は、タイトルの示すとおり、知られざる福沢一郎の魅力を「再発見」しようという試みでした。つまり、今まであまり美術館やギャラリーなどで紹介されてこなかった福沢一郎の制作を前面に出して、その面白さ、豊かさをご紹介することを目的としました。

記念館内東側の大きな壁を飾るのは、主に晩年に描かれた、花と壺の絵です。しかも今回はあえて額に入れず、福沢のアトリエという雰囲気も活かしながら、作品を身近に楽しんでいただこうと考えました。

大きくて生命力の強そうな花は、福沢の描く人間像に似た存在感を放ちます。また壺の絵は、おそらくは古代ギリシャの壺をヒントにしていると思われますが、モティーフはエジプト壁画、イランの建築レリーフ、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画、そして卑弥呼など、じつに多彩です。彼がその都度想像をふくらませ、独自の世界をつくりあげようとしていたことがわかります。

南側の壁(上画像左側)には「旅する福沢一郎」と題して、時空を超えた画家の「旅」をお楽しみいただける作品を並べてみました。ブルターニュの海辺やスペインの闘牛場、そしてハワイなど、実際に訪れた場所の風景や人々の印象を描いたものから、ダンテ『神曲・地獄篇』や『ドン・キホーテ』など物語の世界へも、彼は知的な旅を試み、その成果としてユニークな作品を描いています。
また、西側の壁(上画像右側)には、山梨県立美術館所蔵の大作《失楽園》のための習作を展示しました。作品じたいも、またそのために描かれた習作も画家本人はとても気に入っており、「制作資料展」と称して習作による個展を行ったほどです(1980年、ギャラリージェイコ)。力強く闊達に悪魔の肉体が描かれるかと思えば、ほどよく力の抜けた線で動物たちが表現されたりと、習作といえどもたいへんユニークなものばかりです。

北側のコーナーには、ちょっと不思議な作品をふたつ展示しました(上画像参照)。左側は、制作年のわからない《農耕》というタイトルの作品です。使われている絵具の色や、荒涼とした大地に人間を配する作風から、1946年頃の作品ではないかと推測されます。観覧者の方々からは、これはどこの風景? 何を作っているの? ぜんぜん作物が育たなさそう!など、いろいろな疑問やご意見をいただきました。
右側の作品は、マックス・エルンストのコラージュに影響を受けて制作されたと思われる、1930年作の《静物》です。人の手が大きく描かれている「静物」というのもなかなか謎めいていますし、画面の端に塗り残しが多いのも気になります。これは描きかけ? それともこういう絵にしたかったの? それはなぜ? など、こちらもさまざまな疑問が浮かんできます。こうした謎について、あれこれ思いをめぐらすのも、作品を楽しむひとつの方法ですね。

奥の小部屋には、「旅する福沢一郎」の特設コーナーを作りました。テーマは東北・北海道です。
1950年から51年にかけて、福沢はまず北海道、そして次に東北を旅します。浜辺に打ち上げられたクジラやかまくらなど、見知らぬ土地で得たモティーフは、終戦直後やや混沌とした状況にあった彼の制作に、わずかながら転機をもたらすものであったようです。
《山寺新緑》は、岩壁に萌えたつ色鮮やかな若葉が、画家に与えた活力を感じさせる作品です。

この部屋の展示ケースには、1951年に秋田を旅していた福沢のもとに届いた手紙をふたつ展示しました。これらは、服部・島田バレエ団の創立者のひとり島田廣の筆によるもので、バレエ作品「さまよえる肖像」の舞台美術についての相談・要望と、その舞台装飾原画が到着したお礼が、それぞれ記されています。秋田の旅館で彼が新作バレエ(しかも相当観念的でマニアックな!)の舞台美術についての構想をしていたことがわかる、とても面白い資料です。

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2018年は福沢一郎の生誕120年。秋から来年春にかけて、福沢一郎の展覧会が続きます。それらの中でも、きっといろいろな「再発見」があることと思いますが、当館による福沢一郎の発掘!は、まだまだ続きます。どうぞお楽しみに。
展覧会詳細は、→こちらから。

【展覧会】PROJECT dnF 第2回 室井麻未「ある景色」作家インタビュー

室井麻未 インタビュー

2015年6月28日(日)
ききて:伊藤佳之(福沢一郎記念館非常勤嘱託)


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室井 麻未(むろい・まみ)
1987年生まれ。2011年、第2回青木繁記念大賞西日本美術展(石橋美術館)に入選。2012年、女子美術大学芸術学部絵画学科洋画専攻卒業 、平成23年度加藤成之記念賞、優秀作品賞受賞。2013年、ヤドカリトーキョーvol.09秘密の部屋-恋する小石川-(ヘルシーライフビル、東京) に参加。2014年、女子美術大学大学院美術研究科美術専攻修士課程洋画研究領域修了、平成25年度福沢一郎賞、女子美術大学美術館賞受賞。同年トーキョーワンダーウォール公募2014に入選。

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1 思い出深い《船》

—— 照沼敦朗さんに続いて、室井さんの展覧会となりましたが、なんと今回が人生初の個展だったんですね。手応えはいかがですか。

室井 そうですね、初めてのことなので、いろいろな方に助けていただきながら、なんとかできた…という感じです。

—— 展示してみて、ご自分のなかで何か変化は?

室井 自分のつくったものひとつひとつに対する責任の持ち方が変わりました。 初めて自分の作品だけで空間を使って展示してみて、絵と空間について新しく見えてくるものがあり、ひとつひとつの存在の意味や関係性をより深く考えるようになりました。

—— 収穫があったようで、なによりです。さて、まず出品作の《船》(図1)について詳しくうかがいたいのですが、これは昨年の修了制作のひとつなんですね(1)

室井 はい、これは修了制作の中でも、いちばん最後に描いたものです。この頃、個人的なことですが、身近な人の死などいろいろな出来事や変化があって、そうした中で描きました。200号という大きさに挑むのもはじめてでした。まず身体を動かしながら作品をつくっていくなかで、いろいろなかたちが出てきて…最初はタイトルも決まっていなかったんですよ。どう作品を仕上げていこうか考えるなかで、亡くなった大切な人にゆかりの深い船というものに着目し、そこからまた船を取材し…そんなふうに制作していきました。


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《船》2014年 油彩・カンヴァス 259.0×194.0cm

—— 実際に船を取材なさったんですね。港まで出かけていって。

室井 はい。「船」の一番のもとになるのは、地元の下関の漁港にある船なんですが、そんなに頻繁には帰れなかったので、鵠沼海岸とか晴海埠頭まで行って船を取材しました。頭の中だけではなく、実際に船を見て、また画面に挑むというかたちで制作をすすめました。

—— 画面のところどころに、船のかたちや、海のような色面がみえますね。

室井 はい、船のかたちを借りながら、でも画面の中でしかできないことをやってみようと思って、描きました。






2 新作と展示構成について

—— さて、今回の展示にむけて制作した新作についてうかがいましょう。

室井 はい、私は昨年の春から、女子美術大学の助手をしているのですが、昨年の5月に、学部の3年生を連れて千葉県の鋸山にスケッチ旅行に行ったんですね。これらの作品は、そのときのことを描いています。



図2 《高速道路》 2015年 油彩・カンヴァス 162.0×97.5cm

—— なるほど、それで《トンネル》から《高速道路》(図2)ですか。旅の軌跡というわけですね。

室井 作品を描いているときにも、なんだか旅の途中にいるような感覚になることがあるんです。描くことが旅そのもの、みたいな感覚でしょうか。なので、そうした感覚が作品でも表せればと。「動く絵」というか…絵のなかで何か動いていくような感覚を表したいと思って、こういう作品を描いています。

—— 描く行為じたいが旅のようなものだとすると、そのなかでいろいろな発見をしていくわけですね。

室井 そうですね。色を置くこととか、筆致とか、そういうこともひとつひとつ確認しながら。そして次の場所に行く、というように。

—— 《鋸山》(図3)にはさまざまなイメージが折り重なっていますね。



図3 《鋸山》 2015年 油彩・カンヴァス 182.0×227.5cm

室井 はい、その場所で体感したものや見たもの、いろいろな要素を、一枚の画面に描いています。

—— おっしゃるとおり、いろいろな要素が重なり合って…前年の作品と比べて、よりレイヤー(層)みたいなものを画面に感じるんですが、ご自身ではいかがですか。特に狙っているわけではない?

室井 特に意識したことはなくて、いつも下の塗りとの調和を考えながら(絵具を)置いていくんですが、最近はレイヤーそれぞれで存在するように描くようになったような気がします。なぜそうなったかはよくわからないのですが…(笑)。おそらく今までの作品は、色と色が支え合って成立させていたところがあると思うんですが、最近は支え合うというより、ひとつひとつで自立するように意識が変わってきたのかなと思います。あとの色を乗せるために下の色があるのではなく、下は下、上は上というふうに。

—— 《トンネル》《高速道路》《鋸山》と、一連の作品に共通するねらいがあるように感じます。そして壁面でもストーリーを意識なさったわけですね(図4)。

室井 はい、ここはなんとなくですが、つながりができるように意識してみました。


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図4 アトリエ南面 画像左、階段付近の緑色の平面作品が《トンネル》2015年

—— そして、もうひとつの新作、《木と窓》(図5)が北側の壁にありますね。《高速道路》や《鋸山》とはちょっと趣が違うように思います。これについても少しお話いただけますか。


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図5 《木と窓》 2015年 油彩・カンヴァス 162.0×97.5cm

室井 私は、はじめからタイトルを決めずに、描いていくうちに決まってくることが多いのですが、これは珍しく、はじめから「木と窓」を描こうと決めて取り組みました。木のイメージは、鋸山での取材からとっていて、窓はというと、このアトリエの窓と呼応するものを描きたかったのです。こんなにたっぷりと光が入ってくる空間はそうないと思うので、その印象も含めて。《鋸山》などとは違った表現を目指したのですが、自分としてはもう少しやりきれていないというか…いろいろ反省の多い作品でもあります。







3 生活と制作の変化

—— さて、《高速道路》の上のほうに、どどんと大きいのを展示してくださいましたね(図6)。ここに作品が展示されるのは、福沢一郎記念館史上初!なのです。初めてこの壁が生きたということですが、ここに展示するアイデアははじめからあったんですか。

室井 はい、展示できると聞いたので、ぜひ使ってみようと思いました。今までは目線の高さを意識して展示することが多かったので、こんなに高い場所に展示したら、絵の見えかたも変わってくるかなあと。もちろん、ここでしかできない展示をしてみたいという気持ちもありました。このアトリエは、福沢先生が制作されていた場所ということで、床に絵具のあとがたくさん残っていたり、何というか、体温を感じられる場所なんですね。なので、特別な展示にしたいと思いました。

—— 確かに、壁面がひととおりでない空間ですから、ホワイトキューブでは実現できない展示を目指していただいたわけですね。さて、この作品は《カモメ》というタイトルですね。アトリエの上のほうを飛んでいるようなイメージです。



図6 《カモメ》 2014年 油彩・カンヴァス 112.0×162.0cm

室井 はい。これはちょうど《船》を描くための取材をしているときに撮影した写真のなかからみつけた題材です。夜、港のあたりを飛んでいたカモメに着想を得ています。白いかたちが夜の光のイメージなのですが、それが描いているうちにだんだん崩れていって…その中に、カモメの色や光がみえるようにと思って、描いています。

—— 《カモメ》を制作されたのは2014年、ちょうど《船》の直後くらいですか。

室井 そうですね。就職してすぐ描き始めたものです。

—— 学生のときは、否が応でも制作に没頭せざるを得ないわけですよね。それがお仕事をはじめて、働きながらの制作になる。このあたりで、ご自分の意識として変わってきたものはありますか。

室井 やはり時間の使い方がすごく変わってきました。学生の頃は、多くの時間を制作に使うことができましたが、仕事をはじめるとかなり時間の制約があり、そのなかで葛藤や悩みもあったんですけど、限られた時間の中でしか制作できないものもあると思いました。

—— 制作のうえでの大きな変化は?

室井 主題を見つけるのが早くなったというか…あまり悩んでもいられないので(笑)。

—— タイトルを決めるときに、社会の大きな出来事とか、事件とか、そうしたものではなくて、わりと日常のひとこまのようなところから持ってきているような印象を受けたのですが。

室井 そうですね、言葉としてはそういうものが多いのですが、社会の出来事もやはり日常の一部といえるので、まったく関係がないわけではないと思います。

—— なるほど。そうしたものは、自然と画面に塗りこめられていくのだという意識で。

室井 はい。特別なものではなく、あくまで自分の日常のなかにあるという。

—— 色彩についてもうかがいましょうか。特に新作は、青と緑が画面の中で重要な位置を占めているように思うのですが、そうした色についての意識などがありましたら。

室井 単純なんですけど、小さい頃から海と山に囲まれた街で育ったので、海の青と山の緑というのは、自分にとって象徴的な色で、自然に出てくるのかなあと思っています。もちろん、画面の中では色をたくさん使っているので、それぞれ色の役割は…例えば緑なら赤に対する補色の関係などを考えながら、画面をつくるうえでの大きなポイントとして使っています。あとは、青は自分にとって色幅を出しやすい色なので、画面に深みを出したり、表現の幅を広げるために使うことが多いかなと思います。
もうひとつ、色をたくさん使っていることに関していえば、日頃見ているものや感じていることがとても多くの要素で成り立っているので、それを表現するために、色を限定するのではなくさまざまな色を使って画面を成立させたいと思っています。






4 制作の鍵

—— 今回はタブローのほかに、ドローイングも展示していますね。展示しきれなかったものはクリアファイルに入れて、来館者が自由に見られるようになっています。それにしてもいっぱいありますね。

室井 ちょっと持って来すぎたかもしれません(笑)。




—— 持って来ていただいたドローイングは、だいたい同じくらいのサイズの画用紙に描かれていますが、こういうものばかりではないですよね。

室井 もちろん、大きさや紙の質はばらばらです。今回はしっかり選んで持って来たので、結局こうなりました。

—— ドローイングは日常的に描いてらっしゃる。

室井 必ず毎日、と決めているわけではないですが、自然と何かしら描いていることが多いです。それが制作の参考になることもありますし、かたちや色の、文字通り習作だったりもします。

—— そういえば、この記念館の内部をイメージしたドローイングも、今回展示されているんですよね。

室井 はい、この展示が決まって初めておじゃました時、ここの印象を強く感じて、それを描いておこうと思って。でもこれ、天地が逆なんです(笑)。

—— え? ああ、ほんとだ! でもこのほうがしっくりきますね。

室井 そうなんです(笑)。この展覧会のことを考えながら描いたので、思い入れがあります。入り口から入ってすぐのところに貼り付けてみました。




—— そうそう、会場でお友達とお話されていたのを耳にしまして、それが面白いなと思いました。点を置いて…別に点を描いているわけではないけれど、そうしたタッチのひとつひとつがつながって、いずれかたちを成していくという。

室井 (タッチの)全部が全部計画的なものというわけではなくて…ある程度予測している部分もあるんですけど、はじめから線を描くという意識ではないことが多いです。

—— まず(絵具を)置いてみるという。

室井 そうですね。それが点であったり矩形であったり、筆のストロークであったり。で、そこでつくられた線というのも、単なる線ではなく、全体の一部という意識で描いています。

—— そもそも、抽象で描いていこうと思ったきっかけは、何かあるんでしょうか。

室井 具象的に描くと、それは何であっても自分自身を描いているような気がして…私は自分を見られるのが嫌で(笑)。それで抽象的な表現に向かったともいえます。大学2年のときに、女子美の先生方の作品をみて、あ、こういうことやってもいいんだ、と励まされたというか、背中を押してもらった気がします。

—— でも、結局、抽象に進むと、より鮮明に自分の内面が出てしまうという…

室井 そうなんですよね(笑)。でも、いろいろな描き方を試してきたことで、結局自分は描くことそのものを追求するのが合っているんだなと思うんです。ですから、今のスタイルというか、画面にむかう姿勢は、必然的なものかもしれません。



5 これからの制作

—— 修了制作の図録に書いていらした文章のなかで、視覚の問題についてふれておられたので(2)、そこのところをもう少し。2000年以降の絵画のうごきをみると、具体的な形象を伴った制作が多いように思うんです。例えば木というもの、山というもの、など。それらが何処のどんなものであるかはさておき、それらを何かしらの意味を持たせるために使う。そういう制作が多いような気が、私などはするんです。

室井 はい。

—— 室井さんは、画面を誰しもが同じように捉えられるわけではないと、文章のなかで書いてらっしゃいますね。そして制作も、そうしたかたちが塗り込められることもあるけれど、実際は色、筆の動き、それらの重なりでつくられる、抽象的なイメージで出来ている。こうした、現代においてこうした制作をする自分の立ち位置みたいなものについて、何か意識してらっしゃることはありますか。

室井 意識しないこともないんですが…そうですね…現代に至るいろいろな絵画の流れがあって、過去の作家からも知らず知らずのうちにいろいろな影響を受けてきた分、それらと自分との違いもちゃんと見つけていきたいな、ということは考えています。

—— ひょっとすると、具体的な形象を扱うことを、意識的に避けていらっしゃるのではないかと思ったりもするのですが…。

室井 意識的に離れていることはあると思います。でも、現代の生活のなかで触れられる映像とか、マンガとかアニメとかにインスパイアされた作品とか、そういうものにはとても興味があって、画像情報が氾濫する状況にいま生きているんだなと。これだけたくさんのイメージが氾濫していると、どれを選ぶか迷ってしまうこともありますけど、逆に自分の好きなものがわかってくるというか…。

—— ああ、なるほど。

室井 そのなかで、自分の作品も、もちろんそうしたものたちの影響を受けながら、抽象であれ具象であれ、動いていくものだと思います。ううん…でも、どうでしょう。ちゃんと消化できていないかもしれません(笑)。

—— さて、今後ご自身の制作は、どんなふうに変化していくと思いますか。

室井 新作の《鋸山》を描いていくなかで、自分のなかで新たな発見がいろいろあったので、それを追究してみたいなと思っています。例えば筆致、筆を置く速度であったり…。描くということそのものを突き詰めたい、と思っています。

—— 展示についての意識も変わったと思いますが、これから目指すところがあれば…。

室井 もっと展示空間を揺さぶりたいとも感じました。 今回は展示をするにあたって絵と絵の関係、ドローイングの関係を探りながら展示をしてみましたが、その為には、もっと空間の調査が必要でしたし、絵ひとつひとつの強度をあげることが必要だな、と感じました。




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描くことでしかたどり着けない世界。それは画家であれば誰もが目指す理想の境地であるかもしれない。その道のりはひととおりではなく、画家自身が切り拓き、踏み固めて進まねばならない荒野のようなものだろう。
室井はおそらく感覚的に、絵具と支持体、そして画家自身とのあいだに横たわる荒野の歩き方を体得している。それをことばにするのはとても苦手だと画家はいう。だが今回、ぽつぽつと口からこぼれることばの端々から、困難な旅への強いこだわりと、描くことでしかみえない荒野のありさまをさぐろうとする強い意志が感じられた。
正直なところ、まだその足どりはおぼつかない印象だ。しかしこの危なっかしさをも含めて、画面に真っ正直に取り組む真摯さが室井の原動力でもある。あるとき画面から、ひょいとハードルを飛び越えたときのような爽快感や、するりと視線を巧みにあやつるしなやかさを見つけるのは、失敗を重ねながら成長する画家のすがたそのものが、画面にしっかりと投影されているからかもしれない。
力強さのなかにも柔らかさと鋭敏さが同居する、絵画という旅の道を、室井は選んだ。我々はこれからもその足取りを追い続けていくだろう。(伊藤佳之)

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1 1 「船」『2013 女子美術大学大学院 美術研究科 修士作品・論文要旨集』女子美術大学大学院美術研究科、2014年、p.17 を参照のこと。
2 同上、p.16。

※ 図番号のない画像は、すべて会場風景および外観






【展覧会】「CURIOUSな実験。福沢一郎<素描>の魅力」展 会場風景

展覧会 「CURIOUSな実験。福沢一郎<素描>の魅力」展 の会場風景をご紹介します。

 

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大きな青森ヒバの壁には、1980年頃に集中して制作された「失楽園」の悪魔のシリーズを展示しました。どれもかなり大きな作品なので、迫力満点です。右奥には《楽園から逃亡する動物たち》という、珍しく動物だけを描いた作品があります。またその右隣には、これまた珍しい水彩の《レダ》を展示してみました。

 

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今回は解説パネルやキャプションをほとんど掲示していませんが、この一角だけは唯一解説パネルをつけております。1951年頃に制作された「バレエのコスチューム」についてです。戦後日本のバレエ界を牽引した服部・島田バレエ団の1952年(昭和27年)新春公演のために福沢が描いたとされるデザイン画が2点展示されているので、それらについて簡単にふれてみました。10月30日(水)の、神奈川県立近代美術館学芸員 西澤晴美さんの講演会では、そこのところをもっと詳しくうかがうことができるはずです。

 

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すでに書きましたとおり、今回は解説パネルは1点のみ、作品キャプションはつけておりません。ただ、作品の配置とデータがわかるパンフレットを会場にて配布しております。それを片手にご覧いただければ幸いです。

福沢一郎記念館は、展覧会会期中の月、水、金の開館となります。11月4日(月)は祝日ですが開館いたします。
皆様のお越しをお待ちしております。
展覧会詳細は、→こちらから。

【展覧会】松浦コレクション「とっておきの福沢一郎」展 会場風景

展覧会 松浦コレクション「とっておきの福沢一郎」展 の会場風景をご紹介します。

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コレクターこだわりの逸品揃いとあって、会場は多彩な輝きを放っております。今回は《母子》(1935年)以外は特別な解説をつけず、気軽に楽しんでいただけるような展示を心がけました。卍型(?)に組まれた地獄シリーズ4点も迫力満点です。

福沢一郎記念館は、展覧会会期中の月、水、金の開館となります。5月3日(金)、5月6日(月)も開館いたします。
皆様のお越しをお待ちしております。

展覧会詳細は、→こちらから。

【イベント情報】講演会「『形』と色彩の競演 − 福沢絵画の造形性」報告

展覧会 「福沢一郎 face 展」 の関連イベントとして、講演会「『形』と色彩の競演 − 福沢絵画の造形性」が、10月31日(水)に開催されました。

講師は山形大学地域教育文化学部准教授の小林俊介さん。日本近代美術史の研究者であり、また画家でもあります。技法の観点から日本近代の絵画に迫る意欲的な研究を続けておられます。
今回は、そうした研究手法から福沢絵画の「造形性」に迫る刺激的なものでした。特にルーベンスの作品における色相対比による明暗の描出が、福沢の作品にも活かされているという指摘などは、作家としての体質の類似をしばしば指摘されるルーベンスの作品に、福沢がよく学んでいたことを示唆するものでした。
戦前の日本画壇デビューの頃から最晩年までの主要な福沢作品を、小林さんはこの講演会のために直に調査されたとのことで、非常に細かく福沢の筆の動き、意図的な塗り残し、色の使い方などを分析された講演は、我々聴講者にとって、福沢一郎絵画の理解に新たな目をひらくものでした。講演会の内容は来春の『記念館ニュース』に掲載予定です。

(2012年11月19日)

【展覧会】 福沢一郎 face 展 10/17-12/3, 2012

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《スペイン・ラプソディー》1955年
多摩美術大学美術館蔵


《煽動者》1931年 福沢一郎記念館蔵

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《顔(2)》1982年
富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館蔵



このたび、福沢一郎記念館では、秋の展覧会として「福沢一郎 face」展を開催いたします。

画業のなかで一貫して骨太な力強い人間像を描いた福沢一郎ですが、それら人間像の「顔」について語られることは、これまでほとんどありませんでした。今回は、人間を描くにあたってとりわけ重要な意味をもつ顔というモチーフに、福沢がどのように取り組んだのかを、さまざまな年代の作品により探ってみたいと思います。

多くの画家と同様、福沢一郎の描く顔にもいくつかの特徴があります。まず鼻が強い輪郭線や色彩で強調され、そのまわりにやや控えめに目と口が配置され、中央付近に意識が集中した描き方となっています。こうした特徴は、初期の作品を除き年代に関係なくあらわれるので、顔を描くときの彼の意識が生涯を通じて大きく変わらなかったことを示しています。それは彼の考える普遍的な「人間像」がぶれることなく保たれたことのあらわれでもあり、人間への興味や批判精神を持ち続けた彼の視線を我々に印象づけるものです。
また彼の中でさまざまな変化をみせた主題や造形への興味が、そうした顔の特徴を含みつつ、どのように人間の表現へとつながっていったのかは、彼の画業を検証するうえでたいへん重要なことと考えられます。

今回は最初期の作品《ブルターニュの女》(1927年)から最晩年の《ラファエル》(1991年)まで、油彩、アクリル、そして素描も含めた多彩な16点の作品を展示します。福沢一郎の「顔」に秘められた人間への思いを、会場で感じ取っていただければ幸いです。
この機会に、ぜひお出かけください。

主な出品作:
《ブルターニュの女》1927年 油彩
《煽動者》1931年 油彩
《スペイン・ラプソディー》1955年 油彩 多摩美術大学美術館蔵
《顔(2)》1982年 アクリル 富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館蔵
《ラファエル》1991年 アクリル
《内村鑑三》《新島襄》などの挿絵・素描6点

会 期:2012年10月17日(水)〜12月3日(月)11:00-17:00 月・水・金開館
※ 11月23日(金)は祝日ですが開館します。
入館料:300円


※講演会開催のお知らせ

「『形』と色彩の競演 − 福沢絵画の造形性」
講師:小林俊介氏(山形大学 地域教育文化学部 准教授)
日時:10月31日(水) 14:00〜15:30
場所:福沢一郎記念館
会費:1,500円
※要予約/先着40名様(FAXも可)

<お問い合わせ:お申し込みはこちらまで>
TEL. 03-3415-3405 / FAX. 03-3416-1166

【展覧会】福沢一郎の「ニッポン」4/13-6/1, 2012


《題不詳(人ならば浮き名や立たむさ夜ふけて我た枕に通ふ梅ヶ香)》
1931年 富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館蔵


《世相群像》1946年 富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館蔵



このたび、福沢一郎記念館では、春の展覧会として「福沢一郎の『ニッポン』」を開催いたします。

日本に生まれ、生活する画家が「ニッポン」を描くとき、それはどのようなすがたを伴って現れてくるのでしょう。
ある画家はこの国にしかない風景や人物像を求めるでしょうし、またある画家は受け継がれてきた伝統のなかに美しさを見出し画面に取り入れるでしょう。そして、それらの作品は、ときに故郷としての「ニッポン」を高らかに謳いあげ、ときに注意深く人間をみつめ、またときに社会のありようを激しく批判するものとなるでしょう。事ほど然様に、「ニッポン」をめぐる画家達の制作姿勢と、作品のありようは様々です。
今回の展示は、福沢一郎がどのように「ニッポン」を描いてきたかを、作品をとおして探る試みです。
当然のことながら、彼が「ニッポン」に向けたまなざしは、時代によって、また自らが置かれた立場によって、微妙に変化してゆきます。しかし、通底しているのは人間と社会に対する批判精神であり、また新たな「人間」のすがたを探ろうという強い欲求でした。
「ニッポン」が発展と混沌の渦中にあるとき、彼はその世相を、スナップショットのような視点で切り取ったり、地獄の世界になぞらえたりして、ユーモアたっぷりに批判しました。また「ニッポン」が危機の時代にあるとき、彼は社会の混乱を裸体群像によって象徴的に描き、人間性の恢復を切望しました。さらに晩年になると、古代日本の神話や歴史物語が主題に加わり、ダイナミックな人間達が画面を支配しました。
新鮮な驚きに満ちたワンダーランドであり、皮肉たっぷりに批判するに値する社会であり、さらには人間性を深くみつめるためのひとつの視座であった、福沢一郎の「ニッポン」。今回は新発見の作品2点を含めた10点を展示し、その姿をさぐってみたいと思います。この機会に、ぜひお出かけください。

会 期:2012年4月13日(金)〜6月1日(金)11:00-17:00 月・水・金開館
※ 5月4日(金)は祝日ですが開館します。
入館料:300円


※講演会開催のお知らせ

「福沢一郎、最近の話題」
※終了しました。講演会のようすは、“>こちらから
講師:染谷滋氏(群馬県立館林美術館 館長)
日時:5月9日(水) 14:00〜15:30
場所:福沢一郎記念館
会費:1,500円
※要予約/先着40名様(FAXも可)
※追記:講演会の「会費」が、誤って「1,000円」と記載されておりました。お詫びして訂正いたします。(4/24)

<お問い合わせ:お申し込みはこちらまで>
TEL. 03-3415-3405 / FAX. 03-3416-1166