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【展覧会】「PROJECT dnF+」山内隆「巡礼。2014−2022」2022.9-10
10月1日(土)20:30より、作家によるオンライントーク「巡礼。ぼくが見てきたもの」を開催します。詳しくは →こちら
福沢一郎記念館では、2014年から継続している「福沢一郎賞」歴代受賞者の方々のための企画「PROJECT dnF」を拡張する試みとして、「PROJECT dnF+」をはじめます。
これは、福沢一郎にゆかりのある方、福沢の制作とひびきあう独自の試みをおこなっている方など、当館で意義ある展覧会を開催してくださる方に、当館を展覧会場としてご提供するものです。
今回は、山内隆(女子美術大学教授)が、「巡礼」をテーマに展覧会をおこないます。
近年、巡礼路を辿ることを制作の糧としてきた山内は、昨年福沢一郎著の画文集『秩父山塊』(1944年)に強い関心を示し、それがこの展覧会の種となりました。彼は秩父の山々を注意深く観察し、そこに生きる人々の様子とともに淡々と描きとめた福沢のすがたを、自らの歩みと重ね合わせたのだといいます。
自身の歩みによって過去と現在を結び交感する制作の断片は、福沢一郎のアトリエでどのような景色を切り拓くのでしょうか。

—– 2013年、ポーランドの強制収容所を訪れて以来、絶対的な死の現場に立つ機会を多く持つこととなった。なかでも長崎外海および五島列島の教会群とその周辺の営みに対し、人間が持つ表現に向けた根源的な欲求の部分に深く感じ入り、場を描き留めなければならない特殊な衝動を得た。以後、国内のカトリック教会をめぐる旅を重ね、その旅はスペインの巡礼路の踏破に至り(フランス人の道、ポルトガルの道)、現在「北の道」の踏破を継続中である。長崎のスケッチは発表を前提とせずノートの表裏に描き、スペインの巡礼路では荷物の軽量化のため最低限の色鉛筆と紙に描きとめていった。これらの有るき描きことに没入した、真空のような期間を過ごすことで、あらためて自分の制作の根源が「祈りや奉拝」であることを確信した。
山内隆
山内 隆(やまうち・たかし)
1968 岐阜県生まれ
1993 東京藝術大学 大学院美術研究科 壁画専攻 修士課程 修了
1996 東京藝術大学 大学院美術研究科 油画専攻 満期退学
1996-1999 東京藝術大学 助手
1999 – 現職
2017-2018 ウィーン応用美術大学 Institute of Fine Arts & Media Art Sculpture and Space 研究生
最近の主な個展歴
〈個展〉
2022.6 「山内隆展 巡礼。何処/其所」(iGallery DC 山梨、笛吹市)
2022.3 「山内隆展 巡礼。そらより」(ギャラリー広田美術 東京、銀座)
2018.1 研究発表展示 Wien / Sculpture and Space / exhibition room
2017.11 Unter Sternen Germany / Solingen
2017.9 Takashi Yamauchi Open Studio – Point – JOSHIBI Residency ( Kunstraum Kreuzberg / Bethanien )

◎展覧会 会期:
2022年9月29日(木)-10月15日(土) の 木・金・土曜日開館
13:00 – 17:00 観覧無料
◎イベントのお知らせ:
オンライントーク「巡礼。ぼくが見てきたもの」
2022年10月1日(土) 20:30〜 22:00(予定)
オンライン会議システム「Zoom」を使用 参加無料
◇ 作家が近年取り組んでいる「巡礼の路」をたどる旅、そこで得たもの、感じたこと、そしてそこからつながる近年の制作活動について、画像をまじえて語ります。
◇ 参加ご希望の方は、こちらのリンク または以下のQRコードから、参加申込フォームにお進みいただき、必要事項にご記入のうえ送信してください。
◇ 定員を大幅に超過した場合、受付を終了いたします。あらかじめご了承ください。

【展覧会】旅する福沢一郎 vol.1 写真と素描でたどる『アマゾンからメキシコへ』 5/12 – 6/4
このたび、福沢一郎記念館(世田谷)では、展覧会「旅する福沢一郎 vol.1 写真と素描でたどる『アマゾンからメキシコへ』」を開催いたします。
福沢一郎は旅する画家でした。若い頃から国内外のさまざまな土地へでかけ、地元の人々の生活や祭礼、史跡なども興味深く観察し、制作の糧にしていました。とはいっても、旅先の風景や人物などをそのまま描くのではなく、それぞれの土地で得たさまざまな印象と、貪欲に吸収した知識、それらをもとに積み重ねた思考によって、もっと大きなテーマ、たとえば人間のいのちの力強さや社会のダイナミズムなどへと昇華させていきました。
特に1953-54年の中南米の旅は、彼の制作に強い影響を与え、大きな転換点となったのです。このとき助けとなったのが写真でした。これらの中には、ただ現地のようすを記録するだけでなく、写真としての表現にも挑んでいるようなものが多くあり、画家の興味を知るうえでとても貴重なものです。
帰国後、これらの写真をふんだんに盛り込んだ紀行文集『アマゾンからメキシコへ』(読売新聞社、1954年)が刊行され、大きな話題となりました。
今回の展示は『アマゾンからメキシコへ』の記述と、写真やスケッチなどの小品をもとに、彼の中南米の旅のようすに迫る試みです。この機会にぜひご覧ください。
◎この展覧会は、令和2年度 公益財団法人ポーラ美術振興財団助成 「長谷川三郎と福沢一郎の写真に関する調査研究」の成果の一部を 使用し構成しています。



会 期:2022年5月12日(木)―6月4日(土)の
木・金・土曜日 13:00 -17:00(入館は16:30まで)
観覧料:300円
※ 新型コロナウィルス感染拡大防止のため、ご来館時にはマスクをご着用ください。みなさまのご協力をお願いいたします。
【イベント案内】夜のおしゃべり鑑賞会オンライン 10/29(金)20:30-21:30
現在開催中の展覧会「川端薫 その日を摘む」に展示中の作品(の画像)をみながら、みなさんで気軽に、自由におしゃべりしてみましょう。
予備知識はいりません! 正しい「みかた」もありません!
「対話型鑑賞」で作品を語るみなさんのことばが、新しい作品のみかた、楽しみかたをつくります。ぜひお気軽にご参加ください!
◎開催日時:2021年10月29日(金)20:30-21:30
◎プログラムは以下のとおりです。(約60分/時間は変動する場合があります)
20:30 ごあいさつ、記念館と展覧会のご紹介(10分)
20:40 作品鑑賞とおしゃべり(30分)
まずはじめに、少しの時間、1点の作品(画像)をじっくり、ゆっくりとみてみましょう。
※ どの作品をみるかは、当日までナイショです。
そのあと、感じたこと、気になったこと、発見したことなどなど、いろいろお話してみましょう。
ファシリテーター(進行役)が、みなさんのおしゃべりのお手伝いをいたします。
21:10 作家とおしゃべり、質問タイム(20分)
展示作家の川端薫さんが登場! 作品の感想、鑑賞そのものの感想、作家への疑問質問など
21:30 イベント終了 おつかれさまでした!
◎参加は無料です!
◎参加方法と申込方法は以下のとおりです。
1.参加方法
オンライン会議システム「Zoom」を使用します。
PC、タブレットまたはスマートフォンをご用意ください。
あらかじめ「Zoom」のアプリケーションをインストールしておいていただくと、ご参加がスムーズです。
2.申込方法
各回の定員は、鑑賞者(おしゃべりする人)8名、見学者(おしゃべりのようすを見学する人)15名、いずれも先着順です。
以下のリンクから、申込フォーム(Googleフォームを使用)にご入力いただき、送信してください
※ 定員に達した日時と参加形態(鑑賞者・見学者)は、お申込フォームから入力できなくなります。
参加のお申込みは→こちらのリンク←または以下のQRコードからどうぞ!

参加者のみなさまには、zoomリンクなどのご案内を、ご登録のメールアドレスに、開催日前日までにお送りさせていただきます。
※ フォームへのご入力・送信後、フォームからの自動メールが送信されます。迷惑メールフォルダに入ってしまうことがあるので、ご確認ください!
※ イベント開始前30分を過ぎてもメールが届かない場合は、ご遠慮なくお問い合わせください。
◎このイベントに関するお問い合わせは、event●fukuzmuseum.com (●をアットマークに替えてください)までどうぞ。
【展覧会】所蔵作品選 絵からうまれることばたち 6/24 – 7/10
このたび、福沢一郎記念館(世田谷)では、展覧会「所蔵作品選 絵からうまれることばたち」を開催いたします。
福沢一郎は、自らの制作や個々の作品についてたびたびコメントしていますが、作品を受け取る側=鑑賞者の自由な解釈も尊重していました。実際、福沢の絵画は過度な説明的描写がなく、さまざまな解釈が可能なものばかりです。
では、わたしたちはどこまで、福沢の絵画世界を自由に解釈し、想像をふくらませることができるでしょう? 今回は、制作年も技法も大きさも違う作品をランダムに選び、タイトルや制作年等を明記せずに展示しました。これらの作品の中でどんなことが起こっているでしょう? どんな印象を受けるでしょう? どんな疑問がわいてくるでしょう? そんな作品との対話のなかから、たくさんのことばが紡ぎ出されてくると思います。それこそが、今回の展覧会のテーマです。
みなさんのことばを共有するための、ちょっとした仕掛けも準備しています。また、自分だけの解釈でじっくり絵画の世界を楽しみたい!という方も大歓迎です。ぜひおでかけください。

会 期:6月24日(木)―7月10日(土)の
木・金・土曜日 12:00 -17:00(入館は16:30まで)
観覧料:300円
※ 新型コロナウィルス感染拡大防止のため、ご来館時にはマスクをご着用ください。みなさまのご協力をお願いいたします。
【イベント情報】
午後の/夜のおしゃべり鑑賞会オンライン
6月27日(日)14:00〜15:00
7月2日(金)20:00〜21:00
7月3日(土)14:00〜15:00
7月10日(土)20:00〜21:00
詳しくは こちらのページ をごらんください。
【展覧会】福沢一郎 ギリシャ神話をえがく 10/22 – 11/14
1970(昭和45)年、ギリシャ旅行に出掛けた福沢は、以後ギリシャ神話を題材にした作品を何度も描くようになります。特に奔放な生と愛欲の象徴である「牧神とニンフ」は人間の根源……愚かしくもたくましく生きる人の性……を示すものとして好み、晩年までくりかえし描きました。80年代に入ると、神々にまつわる説話をもとにしながらも、その説明に過ぎることなく、あくまで人間のすがたを追い求めた作品を多く制作しました。
今回は、当館所蔵作品・資料の中から、ギリシャ神話にまつわる福沢作品を展示し、その表現の豊かさをご紹介します。

《踊る》1992年 アクリル・キャンバス 72.7×60.6cm
・《ピュグマリオン》1991年 アクリル・キャンバス 72.7×60.6cm
・《海神ポセイドン》1986年 リトグラフ・紙 38.0×50.0cm
・《牧神の午後》制作年不明 コンテ、墨・紙 48.7×36.7cm
・《『ユリシイズ』より へどろばらんこ》1975年 エッチング、ドライポイント・紙 29.5×35.5cm
その他(いずれも当館蔵)
12:00 -17:00
観覧料 300円
【展覧会】笑う!福沢一郎 4/24 – 5/25, 2019

前衛絵画の牽引者として活躍した福沢の絵画は、「難しい」「わからない」と言われがちです。しかし、実はウィットに富み、笑いを誘うような作品もたくさん制作しているのです。
今回は、福沢一郎作品の中からさまざまな「笑い」の要素を紹介し、画家の新たな魅力をさぐります。思わずニヤリとしたり、クスリとしたり、ムフフとしたり。そんな作品と出会える、ゆるい展覧会です。ぜひおでかけください。

《位階は高く高く納税は低く低く》1974年頃 アクリル・キャンバス 90.9×72.7cm

《食卓(2)》不明(1950年代か) インク・紙 27.2×19.4cm

《風船遊び(孫の即興)》不明 アクリル・キャンバス 40.8×32.0cm
・《さる大臣達》1974年頃 アクリル・キャンバス 73×90.9cm
富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館蔵
・《子そだて餓鬼》1973年頃 アクリル・カンヴァス 52.9×45.6cm
・《西脇順三郎詩集のための挿絵》不明 インク、墨、鉛筆・紙 25.8×18.8cm
・《海底宝探し》《マルクスをやるです》等1930年代の作品写真パネル
その他
12:00 -17:00
観覧料 300円
「福沢一郎展 このどうしようもない世界を笑いとばせ」
で伝えたかったこと
日時:2019年4月27日(土)14:00-15:30
講師:大谷省吾氏(東京国立近代美術館 美術課長)
会費:1,500円(観覧料込)
定員:先着40 名様
【展覧会】FUKUZAWA×HIRAKAWA 悪のボルテージが上昇するか21世紀 10/18 – 11/17, 2018

Will The Voltage of Evil rise in 21st/22nd century?
昭和初期から平成へと至る65年の間、つねに人間と社会への鋭いまなざしを持ち、自由闊達に描き続けた画家福沢一郎(1898-1992)は、今年生誕120年を迎えました。彼の作品と言論は、近年多くの研究者によって見直されつつあります。
この巨人に、近年活躍めざましい若手アーティスト平川恒太が挑みます。平川は、戦争画を黒一色で描くことで見えない歴史の痕跡をさぐるシリーズ「Trinitite」の手法を応用し、福沢の晩年の大作《悪のボルテージが上昇するか21世紀》(1986年)を黒一色、原寸大(197×333.3cm)で描きます。現代の我々が直面する困難を20世紀末に予見したかのような問題作を、平川はどう解釈し、我々に提示するのでしょうか。
その他、福沢が1965年にニューヨークで撮影した写真や、福沢が生前愛用した絵具などを用いた制作をとおして、平川は現代に生きるアーティストとして福沢作品をの解釈を試み、福沢一郎のアトリエ内に展示します。
2011年の多摩美術大学卒業時「福沢一郎賞」を受賞した平川による、福沢一郎との時を超えたコラボレーションを、ぜひご覧ください。

(参考)福沢一郎《悪のボルテージが上昇するか21世紀》1986年
アクリル・キャンバス 197.0×333.3cm 富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館蔵

平川恒太《ケイショウ 悪のボルテージが上昇するか22世紀》
2018年 アクリル・キャンバス 197.0×333.3cm

平川恒太《芸術家たちの対話−私たちはバラなしでは何もできない》 2018年
福沢一郎の赤と青(アクリル)、アクリル・キャンバス 72.7×53.0cm

福沢一郎《STOP WAR》1967年 アクリル・キャンバス 73×91cm
富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館蔵
・平川恒太《ケイショウ 悪のボルテージが上昇するか 22 世紀》
2018年 油彩、アクリル・キャンバス 197×333.3cm
・平川恒太《ニューヨーク・白と黒のダンソウ》
2018年 油彩、アクリル・キャンバス サイズ未定
+福沢一郎撮影写真(1965 年) サイズ未定
・平川恒太《芸術家たちの対話-私たちはバラなしでは 何もできない》
2018 年 福沢一郎の赤と青(アクリル)、アクリル・キャンバス 72.7×53.0cm
・福沢一郎《STOP WAR》1967 年 アクリル・キャンバス 73×91cm
富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館蔵
その他
12:00 -17:00
観覧料 300円
「福沢一郎とその作品から読み解くもの・受け継ぐもの」
日時:2018年10月20日(土)15:00-16:00
語り:平川恒太(出品作家)
佐原しおり(群馬県立館林美術館 学芸員)
進行:伊藤佳之(福沢一郎記念館)
観覧料のみでご参加可能・定員 40 名・先着順
※10月19日16:45 定員に達しました。たくさんのお申込ありがとうございました。
【展覧会】「福沢一郎のヴァーミリオン」展 10/16 – 11/15, 2015
このたび、当館では、秋の展覧会として、「福沢一郎のヴァーミリオン」展を開催いたします。
「ヴァーミリオン(Vermilion)」とは、鮮やかな明るい赤色の顔料、またはその赤色そのものを指すことばです。今回は「ヴァーミリオン」ということばを「赤」を象徴するものと捉えて「赤」から福沢絵画の色彩に迫ってみようと思います。
福沢一郎はしばしば「カラリスト」と評されてきました。とりわけ赤の使い方はユニークで、ときに画面全体を覆い、ときに上塗りの陰からちらりとのぞき、画面にさまざまな趣を与えています。
今回は、年代やテーマにかかわらず「赤」が印象的な福沢作品を集めました。それぞれの「赤」の鮮やかさや面白さ、そしてそこに込められた意味を感じ取っていただければと思います。
この機会に、ぜひお出かけください。
・出品予定作品

《インディオの女》1954年

《争う男》1965年

《闘牛》1978年

《卑弥呼》1991年
会 期:2015年10月16日(金)〜11月15日(日)の日・月・水・金開館
12:00-17:00
入館料:300円
※講演会開催のお知らせ
「“赤”から読み解く福沢絵画」
講師:伊藤佳之(当館学芸員)
日時:10月30日(金) 14:00〜15:30
場所:福沢一郎記念館
会費:1,500円
※要予約、先着40名様(FAXも可)
<お問い合わせ:お申し込みはこちらまで>
TEL. 03-3415-3405
FAX. 03-3416-1166
【展覧会】PROJECT dnF 第2回 室井麻未「ある景色」作家インタビュー
室井麻未 インタビュー
2015年6月28日(日)
ききて:伊藤佳之(福沢一郎記念館非常勤嘱託)
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室井 麻未(むろい・まみ)
1987年生まれ。2011年、第2回青木繁記念大賞西日本美術展(石橋美術館)に入選。2012年、女子美術大学芸術学部絵画学科洋画専攻卒業 、平成23年度加藤成之記念賞、優秀作品賞受賞。2013年、ヤドカリトーキョーvol.09秘密の部屋-恋する小石川-(ヘルシーライフビル、東京) に参加。2014年、女子美術大学大学院美術研究科美術専攻修士課程洋画研究領域修了、平成25年度福沢一郎賞、女子美術大学美術館賞受賞。同年トーキョーワンダーウォール公募2014に入選。
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1 思い出深い《船》
—— 照沼敦朗さんに続いて、室井さんの展覧会となりましたが、なんと今回が人生初の個展だったんですね。手応えはいかがですか。
室井 そうですね、初めてのことなので、いろいろな方に助けていただきながら、なんとかできた…という感じです。
—— 展示してみて、ご自分のなかで何か変化は?
室井 自分のつくったものひとつひとつに対する責任の持ち方が変わりました。 初めて自分の作品だけで空間を使って展示してみて、絵と空間について新しく見えてくるものがあり、ひとつひとつの存在の意味や関係性をより深く考えるようになりました。
—— 収穫があったようで、なによりです。さて、まず出品作の《船》(図1)について詳しくうかがいたいのですが、これは昨年の修了制作のひとつなんですね(1)。
室井 はい、これは修了制作の中でも、いちばん最後に描いたものです。この頃、個人的なことですが、身近な人の死などいろいろな出来事や変化があって、そうした中で描きました。200号という大きさに挑むのもはじめてでした。まず身体を動かしながら作品をつくっていくなかで、いろいろなかたちが出てきて…最初はタイトルも決まっていなかったんですよ。どう作品を仕上げていこうか考えるなかで、亡くなった大切な人にゆかりの深い船というものに着目し、そこからまた船を取材し…そんなふうに制作していきました。
《船》2014年 油彩・カンヴァス 259.0×194.0cm
—— 実際に船を取材なさったんですね。港まで出かけていって。
室井 はい。「船」の一番のもとになるのは、地元の下関の漁港にある船なんですが、そんなに頻繁には帰れなかったので、鵠沼海岸とか晴海埠頭まで行って船を取材しました。頭の中だけではなく、実際に船を見て、また画面に挑むというかたちで制作をすすめました。
—— 画面のところどころに、船のかたちや、海のような色面がみえますね。
室井 はい、船のかたちを借りながら、でも画面の中でしかできないことをやってみようと思って、描きました。
2 新作と展示構成について
—— さて、今回の展示にむけて制作した新作についてうかがいましょう。
室井 はい、私は昨年の春から、女子美術大学の助手をしているのですが、昨年の5月に、学部の3年生を連れて千葉県の鋸山にスケッチ旅行に行ったんですね。これらの作品は、そのときのことを描いています。
図2 《高速道路》 2015年 油彩・カンヴァス 162.0×97.5cm
—— なるほど、それで《トンネル》から《高速道路》(図2)ですか。旅の軌跡というわけですね。
室井 作品を描いているときにも、なんだか旅の途中にいるような感覚になることがあるんです。描くことが旅そのもの、みたいな感覚でしょうか。なので、そうした感覚が作品でも表せればと。「動く絵」というか…絵のなかで何か動いていくような感覚を表したいと思って、こういう作品を描いています。
—— 描く行為じたいが旅のようなものだとすると、そのなかでいろいろな発見をしていくわけですね。
室井 そうですね。色を置くこととか、筆致とか、そういうこともひとつひとつ確認しながら。そして次の場所に行く、というように。
—— 《鋸山》(図3)にはさまざまなイメージが折り重なっていますね。
図3 《鋸山》 2015年 油彩・カンヴァス 182.0×227.5cm
室井 はい、その場所で体感したものや見たもの、いろいろな要素を、一枚の画面に描いています。
—— おっしゃるとおり、いろいろな要素が重なり合って…前年の作品と比べて、よりレイヤー(層)みたいなものを画面に感じるんですが、ご自身ではいかがですか。特に狙っているわけではない?
室井 特に意識したことはなくて、いつも下の塗りとの調和を考えながら(絵具を)置いていくんですが、最近はレイヤーそれぞれで存在するように描くようになったような気がします。なぜそうなったかはよくわからないのですが…(笑)。おそらく今までの作品は、色と色が支え合って成立させていたところがあると思うんですが、最近は支え合うというより、ひとつひとつで自立するように意識が変わってきたのかなと思います。あとの色を乗せるために下の色があるのではなく、下は下、上は上というふうに。
—— 《トンネル》《高速道路》《鋸山》と、一連の作品に共通するねらいがあるように感じます。そして壁面でもストーリーを意識なさったわけですね(図4)。
室井 はい、ここはなんとなくですが、つながりができるように意識してみました。
図4 アトリエ南面 画像左、階段付近の緑色の平面作品が《トンネル》2015年
—— そして、もうひとつの新作、《木と窓》(図5)が北側の壁にありますね。《高速道路》や《鋸山》とはちょっと趣が違うように思います。これについても少しお話いただけますか。
図5 《木と窓》 2015年 油彩・カンヴァス 162.0×97.5cm
室井 私は、はじめからタイトルを決めずに、描いていくうちに決まってくることが多いのですが、これは珍しく、はじめから「木と窓」を描こうと決めて取り組みました。木のイメージは、鋸山での取材からとっていて、窓はというと、このアトリエの窓と呼応するものを描きたかったのです。こんなにたっぷりと光が入ってくる空間はそうないと思うので、その印象も含めて。《鋸山》などとは違った表現を目指したのですが、自分としてはもう少しやりきれていないというか…いろいろ反省の多い作品でもあります。
3 生活と制作の変化
—— さて、《高速道路》の上のほうに、どどんと大きいのを展示してくださいましたね(図6)。ここに作品が展示されるのは、福沢一郎記念館史上初!なのです。初めてこの壁が生きたということですが、ここに展示するアイデアははじめからあったんですか。
室井 はい、展示できると聞いたので、ぜひ使ってみようと思いました。今までは目線の高さを意識して展示することが多かったので、こんなに高い場所に展示したら、絵の見えかたも変わってくるかなあと。もちろん、ここでしかできない展示をしてみたいという気持ちもありました。このアトリエは、福沢先生が制作されていた場所ということで、床に絵具のあとがたくさん残っていたり、何というか、体温を感じられる場所なんですね。なので、特別な展示にしたいと思いました。
—— 確かに、壁面がひととおりでない空間ですから、ホワイトキューブでは実現できない展示を目指していただいたわけですね。さて、この作品は《カモメ》というタイトルですね。アトリエの上のほうを飛んでいるようなイメージです。
図6 《カモメ》 2014年 油彩・カンヴァス 112.0×162.0cm
室井 はい。これはちょうど《船》を描くための取材をしているときに撮影した写真のなかからみつけた題材です。夜、港のあたりを飛んでいたカモメに着想を得ています。白いかたちが夜の光のイメージなのですが、それが描いているうちにだんだん崩れていって…その中に、カモメの色や光がみえるようにと思って、描いています。
—— 《カモメ》を制作されたのは2014年、ちょうど《船》の直後くらいですか。
室井 そうですね。就職してすぐ描き始めたものです。
—— 学生のときは、否が応でも制作に没頭せざるを得ないわけですよね。それがお仕事をはじめて、働きながらの制作になる。このあたりで、ご自分の意識として変わってきたものはありますか。
室井 やはり時間の使い方がすごく変わってきました。学生の頃は、多くの時間を制作に使うことができましたが、仕事をはじめるとかなり時間の制約があり、そのなかで葛藤や悩みもあったんですけど、限られた時間の中でしか制作できないものもあると思いました。
—— 制作のうえでの大きな変化は?
室井 主題を見つけるのが早くなったというか…あまり悩んでもいられないので(笑)。
—— タイトルを決めるときに、社会の大きな出来事とか、事件とか、そうしたものではなくて、わりと日常のひとこまのようなところから持ってきているような印象を受けたのですが。
室井 そうですね、言葉としてはそういうものが多いのですが、社会の出来事もやはり日常の一部といえるので、まったく関係がないわけではないと思います。
—— なるほど。そうしたものは、自然と画面に塗りこめられていくのだという意識で。
室井 はい。特別なものではなく、あくまで自分の日常のなかにあるという。
—— 色彩についてもうかがいましょうか。特に新作は、青と緑が画面の中で重要な位置を占めているように思うのですが、そうした色についての意識などがありましたら。
室井 単純なんですけど、小さい頃から海と山に囲まれた街で育ったので、海の青と山の緑というのは、自分にとって象徴的な色で、自然に出てくるのかなあと思っています。もちろん、画面の中では色をたくさん使っているので、それぞれ色の役割は…例えば緑なら赤に対する補色の関係などを考えながら、画面をつくるうえでの大きなポイントとして使っています。あとは、青は自分にとって色幅を出しやすい色なので、画面に深みを出したり、表現の幅を広げるために使うことが多いかなと思います。
もうひとつ、色をたくさん使っていることに関していえば、日頃見ているものや感じていることがとても多くの要素で成り立っているので、それを表現するために、色を限定するのではなくさまざまな色を使って画面を成立させたいと思っています。
4 制作の鍵
—— 今回はタブローのほかに、ドローイングも展示していますね。展示しきれなかったものはクリアファイルに入れて、来館者が自由に見られるようになっています。それにしてもいっぱいありますね。
室井 ちょっと持って来すぎたかもしれません(笑)。
—— 持って来ていただいたドローイングは、だいたい同じくらいのサイズの画用紙に描かれていますが、こういうものばかりではないですよね。
室井 もちろん、大きさや紙の質はばらばらです。今回はしっかり選んで持って来たので、結局こうなりました。
—— ドローイングは日常的に描いてらっしゃる。
室井 必ず毎日、と決めているわけではないですが、自然と何かしら描いていることが多いです。それが制作の参考になることもありますし、かたちや色の、文字通り習作だったりもします。
—— そういえば、この記念館の内部をイメージしたドローイングも、今回展示されているんですよね。
室井 はい、この展示が決まって初めておじゃました時、ここの印象を強く感じて、それを描いておこうと思って。でもこれ、天地が逆なんです(笑)。
—— え? ああ、ほんとだ! でもこのほうがしっくりきますね。
室井 そうなんです(笑)。この展覧会のことを考えながら描いたので、思い入れがあります。入り口から入ってすぐのところに貼り付けてみました。
—— そうそう、会場でお友達とお話されていたのを耳にしまして、それが面白いなと思いました。点を置いて…別に点を描いているわけではないけれど、そうしたタッチのひとつひとつがつながって、いずれかたちを成していくという。
室井 (タッチの)全部が全部計画的なものというわけではなくて…ある程度予測している部分もあるんですけど、はじめから線を描くという意識ではないことが多いです。
—— まず(絵具を)置いてみるという。
室井 そうですね。それが点であったり矩形であったり、筆のストロークであったり。で、そこでつくられた線というのも、単なる線ではなく、全体の一部という意識で描いています。
—— そもそも、抽象で描いていこうと思ったきっかけは、何かあるんでしょうか。
室井 具象的に描くと、それは何であっても自分自身を描いているような気がして…私は自分を見られるのが嫌で(笑)。それで抽象的な表現に向かったともいえます。大学2年のときに、女子美の先生方の作品をみて、あ、こういうことやってもいいんだ、と励まされたというか、背中を押してもらった気がします。
—— でも、結局、抽象に進むと、より鮮明に自分の内面が出てしまうという…
室井 そうなんですよね(笑)。でも、いろいろな描き方を試してきたことで、結局自分は描くことそのものを追求するのが合っているんだなと思うんです。ですから、今のスタイルというか、画面にむかう姿勢は、必然的なものかもしれません。
5 これからの制作
—— 修了制作の図録に書いていらした文章のなかで、視覚の問題についてふれておられたので(2)、そこのところをもう少し。2000年以降の絵画のうごきをみると、具体的な形象を伴った制作が多いように思うんです。例えば木というもの、山というもの、など。それらが何処のどんなものであるかはさておき、それらを何かしらの意味を持たせるために使う。そういう制作が多いような気が、私などはするんです。
室井 はい。
—— 室井さんは、画面を誰しもが同じように捉えられるわけではないと、文章のなかで書いてらっしゃいますね。そして制作も、そうしたかたちが塗り込められることもあるけれど、実際は色、筆の動き、それらの重なりでつくられる、抽象的なイメージで出来ている。こうした、現代においてこうした制作をする自分の立ち位置みたいなものについて、何か意識してらっしゃることはありますか。
室井 意識しないこともないんですが…そうですね…現代に至るいろいろな絵画の流れがあって、過去の作家からも知らず知らずのうちにいろいろな影響を受けてきた分、それらと自分との違いもちゃんと見つけていきたいな、ということは考えています。
—— ひょっとすると、具体的な形象を扱うことを、意識的に避けていらっしゃるのではないかと思ったりもするのですが…。
室井 意識的に離れていることはあると思います。でも、現代の生活のなかで触れられる映像とか、マンガとかアニメとかにインスパイアされた作品とか、そういうものにはとても興味があって、画像情報が氾濫する状況にいま生きているんだなと。これだけたくさんのイメージが氾濫していると、どれを選ぶか迷ってしまうこともありますけど、逆に自分の好きなものがわかってくるというか…。
—— ああ、なるほど。
室井 そのなかで、自分の作品も、もちろんそうしたものたちの影響を受けながら、抽象であれ具象であれ、動いていくものだと思います。ううん…でも、どうでしょう。ちゃんと消化できていないかもしれません(笑)。
—— さて、今後ご自身の制作は、どんなふうに変化していくと思いますか。
室井 新作の《鋸山》を描いていくなかで、自分のなかで新たな発見がいろいろあったので、それを追究してみたいなと思っています。例えば筆致、筆を置く速度であったり…。描くということそのものを突き詰めたい、と思っています。
—— 展示についての意識も変わったと思いますが、これから目指すところがあれば…。
室井 もっと展示空間を揺さぶりたいとも感じました。 今回は展示をするにあたって絵と絵の関係、ドローイングの関係を探りながら展示をしてみましたが、その為には、もっと空間の調査が必要でしたし、絵ひとつひとつの強度をあげることが必要だな、と感じました。
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描くことでしかたどり着けない世界。それは画家であれば誰もが目指す理想の境地であるかもしれない。その道のりはひととおりではなく、画家自身が切り拓き、踏み固めて進まねばならない荒野のようなものだろう。
室井はおそらく感覚的に、絵具と支持体、そして画家自身とのあいだに横たわる荒野の歩き方を体得している。それをことばにするのはとても苦手だと画家はいう。だが今回、ぽつぽつと口からこぼれることばの端々から、困難な旅への強いこだわりと、描くことでしかみえない荒野のありさまをさぐろうとする強い意志が感じられた。
正直なところ、まだその足どりはおぼつかない印象だ。しかしこの危なっかしさをも含めて、画面に真っ正直に取り組む真摯さが室井の原動力でもある。あるとき画面から、ひょいとハードルを飛び越えたときのような爽快感や、するりと視線を巧みにあやつるしなやかさを見つけるのは、失敗を重ねながら成長する画家のすがたそのものが、画面にしっかりと投影されているからかもしれない。
力強さのなかにも柔らかさと鋭敏さが同居する、絵画という旅の道を、室井は選んだ。我々はこれからもその足取りを追い続けていくだろう。(伊藤佳之)
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1 1 「船」『2013 女子美術大学大学院 美術研究科 修士作品・論文要旨集』女子美術大学大学院美術研究科、2014年、p.17 を参照のこと。
2 同上、p.16。
※ 図番号のない画像は、すべて会場風景および外観