【展覧会】「福沢一郎のヴァーミリオン」展 10/16 – 11/15, 2015


このたび、当館では、秋の展覧会として、「福沢一郎のヴァーミリオン」展を開催いたします。

「ヴァーミリオン(Vermilion)」とは、鮮やかな明るい赤色の顔料、またはその赤色そのものを指すことばです。今回は「ヴァーミリオン」ということばを「赤」を象徴するものと捉えて「赤」から福沢絵画の色彩に迫ってみようと思います。
福沢一郎はしばしば「カラリスト」と評されてきました。とりわけ赤の使い方はユニークで、ときに画面全体を覆い、ときに上塗りの陰からちらりとのぞき、画面にさまざまな趣を与えています。
今回は、年代やテーマにかかわらず「赤」が印象的な福沢作品を集めました。それぞれの「赤」の鮮やかさや面白さ、そしてそこに込められた意味を感じ取っていただければと思います。
この機会に、ぜひお出かけください。

・出品予定作品

1954_w_indio_
《インディオの女》1954年


1965_a_fight_yokobai_no64
《争う男》1965年


1978_a_bullfight_m_c123p140
《闘牛》1978年


1991_a_himiko149md
《卑弥呼》1991年 


会 期:2015年10月16日(金)〜11月15日(日)の日・月・水・金開館
    12:00-17:00 
入館料:300円

※講演会開催のお知らせ
「“赤”から読み解く福沢絵画」
講師:伊藤佳之(当館学芸員)
日時:10月30日(金) 14:00〜15:30
場所:福沢一郎記念館
会費:1,500円
※要予約、先着40名様(FAXも可)

<お問い合わせ:お申し込みはこちらまで>
TEL. 03-3415-3405
FAX. 03-3416-1166

メールマガジン第11号(2015年9月15日発行)

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福沢一郎記念館 メールマガジン No.11
FUKUZAWA Ichiro Memorial Museum
— Setagaya,Tokyo
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[1] 秋の展覧会「福沢一郎のヴァーミリオン」展
[2] ココで観られる福沢一郎作品
[3] コラム 福沢一郎の書架から(10)
[4] 賛助会員のお誘い

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[1]
□ 2015年秋の展覧会
 「福沢一郎のヴァーミリオン」展のご案内

「ヴァーミリオン(Vermilion)」とは、鮮やかな明るい赤色
の顔料、またはその赤色そのものを指すことばです。
今回は「ヴァーミリオン」ということばを「赤」を象徴するも
のと捉えて「赤」から福沢絵画の色彩に迫ってみようと思いま
す。
福沢一郎はしばしば「カラリスト」と評されてきました。とり
わけ赤の使い方はユニークで、ときに画面全体を覆い、ときに
上塗りの陰からちらりとのぞき、画面にさまざまな趣を与えて
います。
今回は、年代やテーマにかかわらず「赤」が印象的な福沢作品
を集めました。それぞれの「赤」の鮮やかさや面白さ、そして
そこに込められた意味を感じ取っていただければと思います。

会  期:10月16日(金)〜11月15日(日)の
     日・月・水・金曜日開館
開館時間:12:00〜17:00
観 覧 料:300円
講 演 会:「“赤”から読み解く福沢絵画」
     講師:伊藤佳之(当館学芸員)
     10月30日(金)14:00〜15:30

詳しくは当館ホームページをご覧ください。↓
https://fukuzmm.wordpress.com/2015/09/15/2015a_vermillion/ ‎

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[2]
□ ココで観られる福沢一郎作品
《虚脱》 1948年 油彩・カンヴァス
 116.7×90.9cm 群馬県立近代美術館蔵
 @「戦後日本美術の出発 1945-1955」
 群馬県立近代美術館

ゆらゆらと何か白いものがゆらめく空、丸みをおびてのっぺり
とした大地、そこに突っ込んでしまったような飛行機の残骸、
そして画面左に大きく描かれた人物。絵の中に描かれているの
はこの4つだけ。それらのどれもが、作品のタイトル「虚脱」
そのものという感じがします。しかし、ただ虚脱感だけが支配
する画面ではなく、何かぬきさしならないもの、緊張感のよう
なものも感じられます。
虚脱感と緊張感が同居するこの不思議な画面に相対したとき、
バランスを欠いたような奇妙な感覚にとらわれるのは、やはり
この作品が描かれた頃、つまり終戦直後の人々を苛んだ虚しさ、
先の見えない不安のようなものが捉えられているからではない
でしょうか。
終戦の翌年から、福沢は裸体群像によって混沌とした世相を多
く描いています。その最も象徴的な作品が《敗戦群像》(メル
マガ第2号でご紹介)とされています。《虚脱》は、その陰に
隠れて大きく取り上げられる機会はあまりないのですが、福沢
らしく時代を描ききった、魅力あふれる作品です。

展覧会「戦後日本美術の出発 1945-1955」は、戦後70年の節
目に、画家たちが終戦からどのように立ち上がったのかを、19
作家65点の作品によってたどるものです。松本竣介、井上長三
郎、杉全直、山下菊二など、福沢とゆかりの深い画家も多数取り
上げられています。
福沢作品は《虚脱》のほか、《ダンテ神曲より》(1946)、
《敗戦群像》(1948年)、《森の人間達》(1955年)の全4点
が展示されます。どうぞお見逃しなく。
会期は9/19(土)から11/3(火・祝)まで。
会期中のミュージアム・レクチャーも充実しています!
詳細は、こちらから↓

http://mmag.pref.gunma.jp/exhibition/japanese.htm

作品画像は、当館ホームページの「作品集」から。↓

https://fukuzmm.wordpress.com/works/

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[3]
□ コラム 福沢一郎の書架から(11)
 
木内克『随筆集 わたしのどろ箱』
 求龍堂 1971年

彫刻家・木内克は、1918(大正7)年、福沢が朝倉彫塑塾の門
を叩いたとき最初に出会った人物で、以来親しい関係が長く続
きました。特に若い頃パリで生活した際、ともに遊び、ともに
学んだようすが、写真や書簡などに残されています。
そんな木内が、福沢に献呈したこの本は、彼が折に触れ書きた
めた随筆をまとめたものです。ささやかで地味な印象の本です
が、しっかりとした装幀もさることながら、文章の洒脱さや、
ふと入り込む彫刻図版などの雰囲気の良さなど、著者の人柄が
随所にあらわれた好著といえるでしょう。
随筆の内容は、雑感めいたものから、彫刻にかける強い信念、
若き日のパリの思い出、妻やモデルへの思いなどさまざまです。
しかし、それぞれの随筆のなかに通底する、著者のしなやかな
視線と、ゆるやかな感情の起伏は、読者をじんわりと彼独特の
世界へいざないます。いつのまにか、穏やかな表情をして読者
に語りかける彫刻家のすがたが、眼前に浮かんでくるようです。
若き日をともに過ごした福沢もまた、この本を読みながら、木
内の人柄と制作にかける情熱を思い、交友の日々を懐かしんだ
ことでしょう。

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[4]
□ 賛助会員のお誘い

一般財団法人福沢一郎記念美術財団では、その美術振興活動を
より広範囲に、積極的にすすめるために、賛助会員を募ってい
ます。
一人でも多くの方に参加していただくことで、若い美術家の顕
彰、美術研究への助成など財団の活動が充実しますので、どう
ぞよろしくお願いいたします。

◯賛助会員の区分と会費
(1) 一般会員 3,000円(年会費)
(2) 維持会員 30,000円(年会費)
(3) 特別会員 300,000円(永久会員)

◯特典
(1) 福沢一郎記念館入館料無料
(2) 福沢一郎記念館ニュース送付
(3) 記念館主催の催し物に優先的にご招待

◯会費のお振込先
●郵便局振替口座 00190-2-695591
 福沢一郎記念館
●りそな銀行 祖師谷支店 普通口座 1000201
 (一財) 福沢一郎記念美術財団

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福沢一郎記念館 メールマガジン No.11
2015年9月15日発行
編集・発行 一般財団法人 福沢一郎記念美術財団

福沢一郎記念館

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【展覧会】PROJECT dnF 第2回 室井麻未「ある景色」作家インタビュー

室井麻未 インタビュー

2015年6月28日(日)
ききて:伊藤佳之(福沢一郎記念館非常勤嘱託)


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室井 麻未(むろい・まみ)
1987年生まれ。2011年、第2回青木繁記念大賞西日本美術展(石橋美術館)に入選。2012年、女子美術大学芸術学部絵画学科洋画専攻卒業 、平成23年度加藤成之記念賞、優秀作品賞受賞。2013年、ヤドカリトーキョーvol.09秘密の部屋-恋する小石川-(ヘルシーライフビル、東京) に参加。2014年、女子美術大学大学院美術研究科美術専攻修士課程洋画研究領域修了、平成25年度福沢一郎賞、女子美術大学美術館賞受賞。同年トーキョーワンダーウォール公募2014に入選。

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1 思い出深い《船》

—— 照沼敦朗さんに続いて、室井さんの展覧会となりましたが、なんと今回が人生初の個展だったんですね。手応えはいかがですか。

室井 そうですね、初めてのことなので、いろいろな方に助けていただきながら、なんとかできた…という感じです。

—— 展示してみて、ご自分のなかで何か変化は?

室井 自分のつくったものひとつひとつに対する責任の持ち方が変わりました。 初めて自分の作品だけで空間を使って展示してみて、絵と空間について新しく見えてくるものがあり、ひとつひとつの存在の意味や関係性をより深く考えるようになりました。

—— 収穫があったようで、なによりです。さて、まず出品作の《船》(図1)について詳しくうかがいたいのですが、これは昨年の修了制作のひとつなんですね(1)

室井 はい、これは修了制作の中でも、いちばん最後に描いたものです。この頃、個人的なことですが、身近な人の死などいろいろな出来事や変化があって、そうした中で描きました。200号という大きさに挑むのもはじめてでした。まず身体を動かしながら作品をつくっていくなかで、いろいろなかたちが出てきて…最初はタイトルも決まっていなかったんですよ。どう作品を仕上げていこうか考えるなかで、亡くなった大切な人にゆかりの深い船というものに着目し、そこからまた船を取材し…そんなふうに制作していきました。


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《船》2014年 油彩・カンヴァス 259.0×194.0cm

—— 実際に船を取材なさったんですね。港まで出かけていって。

室井 はい。「船」の一番のもとになるのは、地元の下関の漁港にある船なんですが、そんなに頻繁には帰れなかったので、鵠沼海岸とか晴海埠頭まで行って船を取材しました。頭の中だけではなく、実際に船を見て、また画面に挑むというかたちで制作をすすめました。

—— 画面のところどころに、船のかたちや、海のような色面がみえますね。

室井 はい、船のかたちを借りながら、でも画面の中でしかできないことをやってみようと思って、描きました。






2 新作と展示構成について

—— さて、今回の展示にむけて制作した新作についてうかがいましょう。

室井 はい、私は昨年の春から、女子美術大学の助手をしているのですが、昨年の5月に、学部の3年生を連れて千葉県の鋸山にスケッチ旅行に行ったんですね。これらの作品は、そのときのことを描いています。



図2 《高速道路》 2015年 油彩・カンヴァス 162.0×97.5cm

—— なるほど、それで《トンネル》から《高速道路》(図2)ですか。旅の軌跡というわけですね。

室井 作品を描いているときにも、なんだか旅の途中にいるような感覚になることがあるんです。描くことが旅そのもの、みたいな感覚でしょうか。なので、そうした感覚が作品でも表せればと。「動く絵」というか…絵のなかで何か動いていくような感覚を表したいと思って、こういう作品を描いています。

—— 描く行為じたいが旅のようなものだとすると、そのなかでいろいろな発見をしていくわけですね。

室井 そうですね。色を置くこととか、筆致とか、そういうこともひとつひとつ確認しながら。そして次の場所に行く、というように。

—— 《鋸山》(図3)にはさまざまなイメージが折り重なっていますね。



図3 《鋸山》 2015年 油彩・カンヴァス 182.0×227.5cm

室井 はい、その場所で体感したものや見たもの、いろいろな要素を、一枚の画面に描いています。

—— おっしゃるとおり、いろいろな要素が重なり合って…前年の作品と比べて、よりレイヤー(層)みたいなものを画面に感じるんですが、ご自身ではいかがですか。特に狙っているわけではない?

室井 特に意識したことはなくて、いつも下の塗りとの調和を考えながら(絵具を)置いていくんですが、最近はレイヤーそれぞれで存在するように描くようになったような気がします。なぜそうなったかはよくわからないのですが…(笑)。おそらく今までの作品は、色と色が支え合って成立させていたところがあると思うんですが、最近は支え合うというより、ひとつひとつで自立するように意識が変わってきたのかなと思います。あとの色を乗せるために下の色があるのではなく、下は下、上は上というふうに。

—— 《トンネル》《高速道路》《鋸山》と、一連の作品に共通するねらいがあるように感じます。そして壁面でもストーリーを意識なさったわけですね(図4)。

室井 はい、ここはなんとなくですが、つながりができるように意識してみました。


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図4 アトリエ南面 画像左、階段付近の緑色の平面作品が《トンネル》2015年

—— そして、もうひとつの新作、《木と窓》(図5)が北側の壁にありますね。《高速道路》や《鋸山》とはちょっと趣が違うように思います。これについても少しお話いただけますか。


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図5 《木と窓》 2015年 油彩・カンヴァス 162.0×97.5cm

室井 私は、はじめからタイトルを決めずに、描いていくうちに決まってくることが多いのですが、これは珍しく、はじめから「木と窓」を描こうと決めて取り組みました。木のイメージは、鋸山での取材からとっていて、窓はというと、このアトリエの窓と呼応するものを描きたかったのです。こんなにたっぷりと光が入ってくる空間はそうないと思うので、その印象も含めて。《鋸山》などとは違った表現を目指したのですが、自分としてはもう少しやりきれていないというか…いろいろ反省の多い作品でもあります。







3 生活と制作の変化

—— さて、《高速道路》の上のほうに、どどんと大きいのを展示してくださいましたね(図6)。ここに作品が展示されるのは、福沢一郎記念館史上初!なのです。初めてこの壁が生きたということですが、ここに展示するアイデアははじめからあったんですか。

室井 はい、展示できると聞いたので、ぜひ使ってみようと思いました。今までは目線の高さを意識して展示することが多かったので、こんなに高い場所に展示したら、絵の見えかたも変わってくるかなあと。もちろん、ここでしかできない展示をしてみたいという気持ちもありました。このアトリエは、福沢先生が制作されていた場所ということで、床に絵具のあとがたくさん残っていたり、何というか、体温を感じられる場所なんですね。なので、特別な展示にしたいと思いました。

—— 確かに、壁面がひととおりでない空間ですから、ホワイトキューブでは実現できない展示を目指していただいたわけですね。さて、この作品は《カモメ》というタイトルですね。アトリエの上のほうを飛んでいるようなイメージです。



図6 《カモメ》 2014年 油彩・カンヴァス 112.0×162.0cm

室井 はい。これはちょうど《船》を描くための取材をしているときに撮影した写真のなかからみつけた題材です。夜、港のあたりを飛んでいたカモメに着想を得ています。白いかたちが夜の光のイメージなのですが、それが描いているうちにだんだん崩れていって…その中に、カモメの色や光がみえるようにと思って、描いています。

—— 《カモメ》を制作されたのは2014年、ちょうど《船》の直後くらいですか。

室井 そうですね。就職してすぐ描き始めたものです。

—— 学生のときは、否が応でも制作に没頭せざるを得ないわけですよね。それがお仕事をはじめて、働きながらの制作になる。このあたりで、ご自分の意識として変わってきたものはありますか。

室井 やはり時間の使い方がすごく変わってきました。学生の頃は、多くの時間を制作に使うことができましたが、仕事をはじめるとかなり時間の制約があり、そのなかで葛藤や悩みもあったんですけど、限られた時間の中でしか制作できないものもあると思いました。

—— 制作のうえでの大きな変化は?

室井 主題を見つけるのが早くなったというか…あまり悩んでもいられないので(笑)。

—— タイトルを決めるときに、社会の大きな出来事とか、事件とか、そうしたものではなくて、わりと日常のひとこまのようなところから持ってきているような印象を受けたのですが。

室井 そうですね、言葉としてはそういうものが多いのですが、社会の出来事もやはり日常の一部といえるので、まったく関係がないわけではないと思います。

—— なるほど。そうしたものは、自然と画面に塗りこめられていくのだという意識で。

室井 はい。特別なものではなく、あくまで自分の日常のなかにあるという。

—— 色彩についてもうかがいましょうか。特に新作は、青と緑が画面の中で重要な位置を占めているように思うのですが、そうした色についての意識などがありましたら。

室井 単純なんですけど、小さい頃から海と山に囲まれた街で育ったので、海の青と山の緑というのは、自分にとって象徴的な色で、自然に出てくるのかなあと思っています。もちろん、画面の中では色をたくさん使っているので、それぞれ色の役割は…例えば緑なら赤に対する補色の関係などを考えながら、画面をつくるうえでの大きなポイントとして使っています。あとは、青は自分にとって色幅を出しやすい色なので、画面に深みを出したり、表現の幅を広げるために使うことが多いかなと思います。
もうひとつ、色をたくさん使っていることに関していえば、日頃見ているものや感じていることがとても多くの要素で成り立っているので、それを表現するために、色を限定するのではなくさまざまな色を使って画面を成立させたいと思っています。






4 制作の鍵

—— 今回はタブローのほかに、ドローイングも展示していますね。展示しきれなかったものはクリアファイルに入れて、来館者が自由に見られるようになっています。それにしてもいっぱいありますね。

室井 ちょっと持って来すぎたかもしれません(笑)。




—— 持って来ていただいたドローイングは、だいたい同じくらいのサイズの画用紙に描かれていますが、こういうものばかりではないですよね。

室井 もちろん、大きさや紙の質はばらばらです。今回はしっかり選んで持って来たので、結局こうなりました。

—— ドローイングは日常的に描いてらっしゃる。

室井 必ず毎日、と決めているわけではないですが、自然と何かしら描いていることが多いです。それが制作の参考になることもありますし、かたちや色の、文字通り習作だったりもします。

—— そういえば、この記念館の内部をイメージしたドローイングも、今回展示されているんですよね。

室井 はい、この展示が決まって初めておじゃました時、ここの印象を強く感じて、それを描いておこうと思って。でもこれ、天地が逆なんです(笑)。

—— え? ああ、ほんとだ! でもこのほうがしっくりきますね。

室井 そうなんです(笑)。この展覧会のことを考えながら描いたので、思い入れがあります。入り口から入ってすぐのところに貼り付けてみました。




—— そうそう、会場でお友達とお話されていたのを耳にしまして、それが面白いなと思いました。点を置いて…別に点を描いているわけではないけれど、そうしたタッチのひとつひとつがつながって、いずれかたちを成していくという。

室井 (タッチの)全部が全部計画的なものというわけではなくて…ある程度予測している部分もあるんですけど、はじめから線を描くという意識ではないことが多いです。

—— まず(絵具を)置いてみるという。

室井 そうですね。それが点であったり矩形であったり、筆のストロークであったり。で、そこでつくられた線というのも、単なる線ではなく、全体の一部という意識で描いています。

—— そもそも、抽象で描いていこうと思ったきっかけは、何かあるんでしょうか。

室井 具象的に描くと、それは何であっても自分自身を描いているような気がして…私は自分を見られるのが嫌で(笑)。それで抽象的な表現に向かったともいえます。大学2年のときに、女子美の先生方の作品をみて、あ、こういうことやってもいいんだ、と励まされたというか、背中を押してもらった気がします。

—— でも、結局、抽象に進むと、より鮮明に自分の内面が出てしまうという…

室井 そうなんですよね(笑)。でも、いろいろな描き方を試してきたことで、結局自分は描くことそのものを追求するのが合っているんだなと思うんです。ですから、今のスタイルというか、画面にむかう姿勢は、必然的なものかもしれません。



5 これからの制作

—— 修了制作の図録に書いていらした文章のなかで、視覚の問題についてふれておられたので(2)、そこのところをもう少し。2000年以降の絵画のうごきをみると、具体的な形象を伴った制作が多いように思うんです。例えば木というもの、山というもの、など。それらが何処のどんなものであるかはさておき、それらを何かしらの意味を持たせるために使う。そういう制作が多いような気が、私などはするんです。

室井 はい。

—— 室井さんは、画面を誰しもが同じように捉えられるわけではないと、文章のなかで書いてらっしゃいますね。そして制作も、そうしたかたちが塗り込められることもあるけれど、実際は色、筆の動き、それらの重なりでつくられる、抽象的なイメージで出来ている。こうした、現代においてこうした制作をする自分の立ち位置みたいなものについて、何か意識してらっしゃることはありますか。

室井 意識しないこともないんですが…そうですね…現代に至るいろいろな絵画の流れがあって、過去の作家からも知らず知らずのうちにいろいろな影響を受けてきた分、それらと自分との違いもちゃんと見つけていきたいな、ということは考えています。

—— ひょっとすると、具体的な形象を扱うことを、意識的に避けていらっしゃるのではないかと思ったりもするのですが…。

室井 意識的に離れていることはあると思います。でも、現代の生活のなかで触れられる映像とか、マンガとかアニメとかにインスパイアされた作品とか、そういうものにはとても興味があって、画像情報が氾濫する状況にいま生きているんだなと。これだけたくさんのイメージが氾濫していると、どれを選ぶか迷ってしまうこともありますけど、逆に自分の好きなものがわかってくるというか…。

—— ああ、なるほど。

室井 そのなかで、自分の作品も、もちろんそうしたものたちの影響を受けながら、抽象であれ具象であれ、動いていくものだと思います。ううん…でも、どうでしょう。ちゃんと消化できていないかもしれません(笑)。

—— さて、今後ご自身の制作は、どんなふうに変化していくと思いますか。

室井 新作の《鋸山》を描いていくなかで、自分のなかで新たな発見がいろいろあったので、それを追究してみたいなと思っています。例えば筆致、筆を置く速度であったり…。描くということそのものを突き詰めたい、と思っています。

—— 展示についての意識も変わったと思いますが、これから目指すところがあれば…。

室井 もっと展示空間を揺さぶりたいとも感じました。 今回は展示をするにあたって絵と絵の関係、ドローイングの関係を探りながら展示をしてみましたが、その為には、もっと空間の調査が必要でしたし、絵ひとつひとつの強度をあげることが必要だな、と感じました。




ーーーーーーー

描くことでしかたどり着けない世界。それは画家であれば誰もが目指す理想の境地であるかもしれない。その道のりはひととおりではなく、画家自身が切り拓き、踏み固めて進まねばならない荒野のようなものだろう。
室井はおそらく感覚的に、絵具と支持体、そして画家自身とのあいだに横たわる荒野の歩き方を体得している。それをことばにするのはとても苦手だと画家はいう。だが今回、ぽつぽつと口からこぼれることばの端々から、困難な旅への強いこだわりと、描くことでしかみえない荒野のありさまをさぐろうとする強い意志が感じられた。
正直なところ、まだその足どりはおぼつかない印象だ。しかしこの危なっかしさをも含めて、画面に真っ正直に取り組む真摯さが室井の原動力でもある。あるとき画面から、ひょいとハードルを飛び越えたときのような爽快感や、するりと視線を巧みにあやつるしなやかさを見つけるのは、失敗を重ねながら成長する画家のすがたそのものが、画面にしっかりと投影されているからかもしれない。
力強さのなかにも柔らかさと鋭敏さが同居する、絵画という旅の道を、室井は選んだ。我々はこれからもその足取りを追い続けていくだろう。(伊藤佳之)

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1 1 「船」『2013 女子美術大学大学院 美術研究科 修士作品・論文要旨集』女子美術大学大学院美術研究科、2014年、p.17 を参照のこと。
2 同上、p.16。

※ 図番号のない画像は、すべて会場風景および外観






メールマガジン第10号(2015年7月20日発行)

=======================================2015/07/20
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福沢一郎記念館 メールマガジン No.10
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[1] 「PROJECT dnF」無事終了しました
[2] ココで観られる福沢一郎作品
[3] コラム 福沢一郎の書架から(10)
[4] 賛助会員のお誘い

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[1]
□ 2015年春の展示
 「PROJECT dnF ー「福沢一郎賞」受賞作家展ー」
  無事終了しました
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歴代の「福沢一郎賞」受賞者に記念館のギャラリーを個展会場
として提供する試み「PROJECT dnF」、この春は第1回 照沼
敦朗「惑星の端」と、第2回 室井麻未「ある景色」をおこない
ました。
メインスクリーンと2箇所のドアに映像を投影しつつ、宇宙空間
をイメージしたインスタレーションをおこなった照沼敦朗は、
実写を取り込んだり抽象的なイメージを使ったりと、新たな試
みを成功させました。今後の展開が非常に楽しみです。
また、新作を中心とした展示構成を試みた室井麻未は、福沢一
郎のアトリエを自由な感覚で埋めつくし、力強さと柔らかさが
同居する作品の魅力を十分に発揮させることができました。
記念館としては初めての試みでしたが、ふたりの作家がそれぞ
れに力を発揮してくれたことが何よりと思っております。今後
当館で展示を考えている作家の励みにもなったことでしょう。
さて、来年の「PROJECT dnF」に向けて、我々は早くも始動
しております。充実した作家の刺激的な展示が実現するよう、
準備してまいります。乞うご期待!

照沼敦朗「惑星の端」の記録とインタビューは、記念館ホーム
ページにて公開中です。↓
https://fukuzmm.wordpress.com/2015/06/15/dnf1_terunuma/

室井麻未「ある景色」も同様に記録とインタビューを近日公開
予定です。どうぞお楽しみに。

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[2]
□ ココで観られる福沢一郎作品
《世相群像》 1946年 油彩・カンヴァス
 130.0×162.1cm 
 富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館蔵
 @「画家たちと戦争:彼らはいかにして生きぬいたのか」
 名古屋市美術館

今回ご紹介するこの作品は、終戦直後に展覧会に出品されて以
来、長らく日の目を見ることがありませんでした。それもその
はず、この作品は《寡婦と誘惑》(1930年)の下張りに使われ
ており、1994年の修復の際ようやく発見されたのです。
古い作品の下張りに使われていたということは、福沢自身はあ
まり気に入っていなかった作品なのかもしれません。しかし、
彼の終戦直後の制作を知るうえでは、たいへん貴重な作例です。
画面中央にはピラミッド状のがれきの山があり、その右側には
暗く荒れた空が、左側には明るく澄んだ空が広がります。その
手前には地面をほじくる人、取っ組み合いのケンカをする人、
頭を寄せ合って相談をする人…。終戦直後の混乱した世相に生
きるさまざまな人間模様が描き出されています。
注目すべきは、画面の下端に描かれた白髪の男。後ろ向きです
が、眼鏡をかけて、真っ白な本のようなものを開いて、ぽかん
と口を開けているようにも見えます。これは、戦時中に自由な
制作や言論を封じられてしまった、福沢自身の姿なのではない
かと想像してしまいます。
骨太な福沢本来の作風はなりを潜めていますが、戦争という惨
禍をくぐり抜けた彼の、非常にストレートなメッセージが表さ
れた作品といえるのではないでしょうか。

現在この作品は、名古屋市美術館の企画展「画家たちと戦争:
彼らはいかにして生きぬいたのか」に出品中です。横山大観や
松本竣介など、著名な14人の作家を取り上げ、戦前から戦後を
とおしてその作品をみることで、彼らがいかに苦難の時代を生
き抜いたかをさぐる意欲的な展覧会です。
福沢一郎作品は《世相群像》のほか、《他人の恋》(1930年)
や《顔》(1955年)など全9点が展示されます。
この夏注目の展覧会、どうぞお見逃しなく。
会期は9/23(祝・水)まで(一部展示替えがあります)。
展覧会の詳細は、こちらから↓

http://www.art-museum.city.nagoya.jp/tenrankai/2015/worldwar2/

作品画像は、当館ホームページの「作品集」から。

https://fukuzmm.wordpress.com/works/

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[3]
□ コラム 福沢一郎の書架から(10)
 
André Breton, What is surrealism?
translated by David Gascoyne
Faber & Faber, London, 1936

1934年にブリュッセルで行われた、シュルレアリスムの提唱者
アンドレ・ブルトンの講演記録を英語に訳した書物です。訳者
はデイヴィッド・ガスコイン。イギリスにおけるシュルレアリ
スムの紹介者として知られる詩人です。
この本がイギリスで出版された年、ロンドンでは「シュルレア
リスム国際展」が開催され、ガスコインもその開催に一役買っ
ていました。つまり本書は、展覧会の開催にあわせてシュルレ
アリスム運動をイギリスに広めようという意図のもとに出版さ
れたといってもいいでしょう。
本書は、福沢一郎の著書『シュールレアリズム』(1937年)の
中身にも大きな影響を与えています。最新の前衛美術の動向を
とらえて紹介することを念頭に置いていた福沢は、そのために
書物をわざわざ海外から取り寄せ、通読したうえで原稿に取り
組んでいました。シュルレアリスムと共産主義との関わりや、
ファシズムに抵抗するブルトンの姿勢などが強く示されている
本書も、その中の一冊なのでしょう。当時の状況を考えると、
かなり治安当局ににらまれそうな内容ですが…現存しているの
はありがたい限りです。
当時は邦訳が憚られたでしょうが、現在はもちろん邦訳が出て
います(秋山澄夫訳、思潮社、1994年)。やや難解なところも
ありますが、1930年代中頃の「シュルレアリスム」を知るため
には必須の書です。ご興味のあるかたはぜひ。

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[4]
□ 賛助会員のお誘い

一般財団法人福沢一郎記念美術財団では、その美術振興活動を
より広範囲に、積極的にすすめるために、賛助会員を募ってい
ます。
一人でも多くの方に参加していただくことで、若い美術家の顕
彰、美術研究への助成など財団の活動が充実しますので、どう
ぞよろしくお願いいたします。

◯賛助会員の区分と会費
(1) 一般会員 3,000円(年会費)
(2) 維持会員 30,000円(年会費)
(3) 特別会員 300,000円(永久会員)

◯特典
(1) 福沢一郎記念館入館料無料
(2) 福沢一郎記念館ニュース送付
(3) 記念館主催の催し物に優先的にご招待

◯会費のお振込先
●郵便局振替口座 00190-2-695591
 福沢一郎記念館
●りそな銀行 祖師谷支店 普通口座 1000201
 (一財) 福沢一郎記念美術財団

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福沢一郎記念館 メールマガジン No.10
2015年7月20日発行
編集・発行 一般財団法人 福沢一郎記念美術財団

福沢一郎記念館

【ホームページを移転しました】


facebook: https://www.facebook.com/fukuzmuseum

Copyright(c) 2014-2015 FUKUZAWA ICHIRO MEMORIAL FOUNDATION
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※バックナンバーは記念館ホームページでご覧いただけます。
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メールマガジン第9号(2015年6月16日発行)

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福沢一郎記念館 メールマガジン No.9
FUKUZAWA Ichiro Memorial Museum
— Setagaya,Tokyo
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□■□  現在当館は開館中です  □■□
■□■ 15日から28日まで無休  ■□■

[1] 「PROJECT dnF」第2回 室井麻未「ある景色」
[2] ココで観られる福沢一郎作品
[3] コラム 福沢一郎の書架から(9)
[4] 賛助会員のお誘い

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[1]
□ 2015年春の展示
 「PROJECT dnF ー「福沢一郎賞」受賞作家展ー」
  第2回 室井麻未「ある景色」
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歴代の「福沢一郎賞」受賞者に記念館のギャラリーを個展会場
として提供する試み「PROJECT dnF」。
第1回 照沼敦朗「惑星の端」は好評のうちに幕を閉じました。
ご来館いただきました皆様、ありがとうございました!
映像を中心としたインスタレーションは、ご来館くださった皆
様にとっても、そして我々スタッフにとっても、たいへん刺激
的なものでした。作家のさらなる活躍に期待しましょう。

そして昨日、第2回 室井麻未「ある景色」がオープンしました。
室井の作品には、イメージがまるで層をなすようにいくつも塗
り込められ、さまざまな色が踊っています。軽やかさと重厚さ、
ゆるやかさと鋭さが同居するふしぎな世界です。
室井は、わたしたちが眼で見ている世界と、そのあいだ、その
むこうにある、見えそうで見えない世界のあいだで揺れ動きな
がら、その揺れ幅を塗り込めるように制作しています。絵画と
はいったい何か、見えるものと見えないもののあいだには何が
あるのか。彼女の作品は、そんな根本的な問いかけをしている
ようです。
ゆるやかな絵画のありようを探る注目の画家が、初めての個展
を当館でおこないます。この機会にぜひご覧ください。

「PROJECT dnF -「福沢一郎賞」受賞作家展-」
第2回 室井麻未「ある景色」の開催予定は以下のとおりです。

6月15日(月) — 28日(日) 11:00 — 17:00 無休
オープニングレセプション 6月20日(土)17:00 — 19:00
ギャラリートーク 6月21日(日)14:00 — 15:00

記念館ホームページで、日程等をご覧になれます。
https://fukuzmm.wordpress.com/2015/04/28/dnf_1terunuma_2muroi/

※福沢一郎作品も、奥の部屋に展示いたします。こちらもぜひ
お楽しみください。

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[2]
□ ココで観られる福沢一郎作品
《ケンタウロス》 1970年 アクリル・カンヴァス
 71×162cm 前橋市立図書館蔵

深い青色の空と黄緑の鮮やかな大地を背景に、ピンク色のケン
タウロスが大きく腕を広げ、まるで飛び跳ねるようなポーズを
とっています。後ろでは牧神らが踊り、底抜けに明るい世界を
楽しんでいるようです。
この作品は、1971年に群馬銀行から前橋市へ寄贈され、1974
年に現在の前橋市立図書館が開館したとき、中央図書室に展示
されました。1階と2階のあいだの吹き抜けに面した細長い壁に、
まるであつらえたようにぴったりとおさまっています。
1970年頃、福沢はギリシャ神話に主題を得て多くの作品を制作
います。青い空と果てしない大地、そして奔放なポーズの神々
や半獣半人たちは、この時期の重要なモティーフだったようで、
福沢は作品ごとに少しずつ、かたちや描写の方法を変えながら
描いています。この作品にあらわれた鮮やかなピンクのケンタ
ウロスは、おおらかなポーズとあいまって、とてものびやかに、
そして力強く、生命を謳歌しているように思えます。
本作品が図書館に展示されるようになった経緯は明らかではあ
りませんが、大地の上で躍動するケンタウロスや牧神のすがた
は、まことに福沢らしい、自由な学びの場の象徴といえるかも
しれません。

本作品は前橋市立図書館1階の中央図書室に常設展示中。開館
中ならいつでも見られます。

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[3]
□ コラム 福沢一郎の書架から(9)
 
アンダーソン著、松崎壽和訳『黄土地帯』
 座右寶刊行会、1942年

本書は、スウェーデンの地質学者・考古学者ヨハン・グンナー
ル・アンダーソン(アンデショーン)の著書『黄土の子等:先
史時代中国の研究(原題Children of the Yellow Earth
:Studies in Prehistoric China)』(マクミラン社、
ニューヨーク、1934年)を訳したものです。著者は戦前の中国
で地質調査や発掘、後進の指導にあたり、中国の地質学・考古
学研究の発展に大きな役割を果たした人物です。
本書は、「北京人類(北京原人)」の発見など、著者の研究成
果をまとめたものですが、それにとどまらず現地の様子や人々
の生活などのエピソードもちりばめられ、案外親しみやすい書
物です。訳も非常にていねいで、当時の書評などでも高く評価
されているようです。
さて、福沢は本書の刊行に先立つ1939年末、中国の山西省へ旅
し、そこで見た人々の生きざまを主題として《山西図》や《黄
土にすむ人》などの作品を制作しています。ですから、本書が
直接制作の役に立ったとは思われません。しかし、もともと人
類学や考古学に強い興味を抱いていた福沢にとって、本書は知
的好奇心をおおいに刺激したでしょうし、それが地域の地質学
や民俗学への関心を呼び起こし、『秩父山塊』(1944年)など
を執筆するときの参考にもなったのではないでしょうか。
戦後に中南米やオーストラリアへ旅した際などにも、福沢は専
門書を取り寄せて読み、かの地に関する知識を広く求めました。
絵画制作はつとめて知的な作業であり、知見を広め、深めるこ
とが画家には必要であると考えていた福沢の姿勢は、こうした
書物であふれる彼の本棚にはっきりとあらわれています。

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[4]
□ 賛助会員のお誘い

一般財団法人福沢一郎記念美術財団では、その美術振興活動を
より広範囲に、積極的にすすめるために、賛助会員を募ってい
ます。
一人でも多くの方に参加していただくことで、若い美術家の顕
彰、美術研究への助成など財団の活動が充実しますので、どう
ぞよろしくお願いいたします。

◯賛助会員の区分と会費
(1) 一般会員 3,000円(年会費)
(2) 維持会員 30,000円(年会費)
(3) 特別会員 300,000円(永久会員)

◯特典
(1) 福沢一郎記念館入館料無料
(2) 福沢一郎記念館ニュース送付
(3) 記念館主催の催し物に優先的にご招待

◯会費のお振込先
●郵便局振替口座 00190-2-695591
 福沢一郎記念館
●りそな銀行 祖師谷支店 普通口座 1000201
 (一財) 福沢一郎記念美術財団

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福沢一郎記念館 メールマガジン No.9
2015年6月16日発行
編集・発行 一般財団法人 福沢一郎記念美術財団

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【展覧会】PROJECT dnF 第1回 照沼敦朗「惑星の端」作家インタビュー

照沼敦朗 インタビュー

2015年6月4日(木)
ききて:伊藤佳之(福沢一郎記念館非常勤嘱託)

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照沼敦朗(てるぬま・あつろう)
1983年生まれ。2006年、鑓水美術館(多摩美術大学内)にて初個展。学生時代から映像作品を制作。2007年、多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業、福沢一郎賞受賞。同年就職するが翌年退職、作家活動を専らにする。映像と平面・立体作品を融合させたインスタレーションで注目を集める。2010年、アキバタマビ21プレオープン展「A NEW NORMAL」に出品。2011年、「第14回岡本太郎現代美術賞」展に出品、インスタレーション《見えるか?》が特別賞を受賞。同年Gallery Jin Projectにて個展「想定外見聞録」開催。2012年「黄金町バザール2012」に参加。以後個展、グループ展、アート・イン・レジデンスなどで活躍。

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1 アトリエを宇宙に

—- 福沢一郎記念館での新たな試み「PROJECT dnF」の第1回に、照沼敦朗さんが個展を開いてくださいました。展示してみて、手応えはいかがですか。

照沼 けっこういいんじゃないですか。僕は映像とまわりの風景が溶け込むようなインスタレーションを目指して制作していて、今までで一番やりきった感があります。

—- 正直なはなし、福沢一郎賞受賞者のかたの展示を当館で…と呼びかけて、ここまで反応の早い方がいるとは思いませんでした。確かtwitterでメッセージをくださったんですよね。この時期に、ここで!と思ったのはなぜですか。

照沼 いや、たまたま展示がなかったから…まあ僕は何にでも食いつくんで。

—- そうですか? 新宿眼科画廊で昨年の12月に個展(1)があって…。

照沼 ああ、そうですね。そのあと1月に「ごった煮展」(2)があって、取手のレジデンスが2月(3)にあって、その展示を取手でやって(4)、こんどは黄金町で巡回展(5)みたいなかたちでやって。

—- けっこう忙しかったじゃないですか。よくやってくれたなと私などは思うのですが。

照沼 だから、今回は平面は絶対に無理だと思って、まだやっていないから映像主体の展示をやろうという気持ちだったんです。

—- なるほど。今回は3つの映像を主にして、平面は《Toride》の背景になった布の作品だけにして、あとは会場にちりばめられたオブジェとドローイングのみと。現在(展覧会会期中:2015年6月4日)も各所で増殖中ですが。

照沼 増えてますねえ。今キッチンの上に描いてます。なんだか、あそこは野球場のスコアボードみたいに見えるので、そこを埋めようと思って(図1)。



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図1 画像右側、キッチン上のドローイング

—- 埋める気満々ですね。そもそもこういうギャラリー然としてない空間での展示は初めてじゃないですか。

照沼 いや、黄金町バザールのとき(6)は、僕だけホワイトキューブじゃないところでした。僕の展示会場は確か以前は食堂で、ちょっと広くて、木の梁が出ていて。いちおう白くは塗ってあったんですけどね、けっこうかたちが複雑で。そしてそれを窓閉じたり真っ暗にしたり、いろいろやりました。

—- ここに初めていらっしゃった時、つまり展示をやりたいといって来てくださった時、展示のアイデアはすでにあったんですか?

照沼 さっき言ったように、いちおう映像を主にした展示にする予定はあったんですけど、全体的な構想はできていませんでした。取手で作った作品がすでにあったので、今回はそれをベースに抽象的なものをつくろうとは思っていたんですけど、会場のアトリエを見て、ドアや階段がとても面白いと感じたので、ドアに映像を投影しようという考えがすぐ思いつきました。

—- 展示で苦労したことはどんなことでしょう?

照沼 窓(の遮光)ですね。もともとアトリエだった空間ですから、画家は窓からの光を取り入れることを考えてつくるから、どうしても窓が大きいじゃないですか。そこをどうやって塞ごうかと考えました。
塩ビシートで仮の天井を張ってしまおうかとも考えたんですけど、結局外に貼ることになり…。そしてどうせならそこに絵を描いてしまおうと思って、試行錯誤しました。友達にも助けてもらって。あと、階段のところにもプロジェクションマッピングをしようと思ったんですけど、それはあまりに大変なので断念しました。


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—- でも、結果的に整理された感じにはなったんじゃないでしょうか。

照沼 まあ、そうですね。ドアのところだけでもプロジェクションマッピングが出来て、実際にそこを人が行き来するという、現実と映像が重なり合う面白さを実現出来たので、そこは満足しています。
それから、床にラインをひいて、プロジェクターの投影の邪魔にならないように人を誘導してるんですけど、これは小学校の屋上にあった自転車の練習場がもとになっていて、宇宙みたいな空間にこんな通路があったら面白いかな、と。

—- けっこういろいろやっていただきましたが、さて、今回の展覧会のタイトルが「惑星の端」ということで、真っ暗、真っ黒な宇宙空間をこのアトリエ内につくってしまったわけですね。色々なものが壁や床にいますね。宇宙なのに魚が飛んでいたり、キノコ星人みたいなのがいたり…(図2,3)。


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図2 画像左側、壁に貼り付けられているオブジェ

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図3 キノコ星人?

照沼 キノコ星人じゃないですよ!パラグライダーで降りてくる人です。

—- パラグライダー!? 宇宙なのに?

照沼 そうです。これは友達の作品から感化されて作ってみたんです。宇宙服を着てパラグライダーで降りてくるという。
で、魚はというと、これは深海魚をイメージしています。光の届かないところで生きている深海魚って、眼が退化していて見えない。暗黒の世界っていうことでいえば、宇宙も深海も似たようなもの、というか、宇宙にもこんな生物がいてもおかしくないかなと思って。で、宇宙船もあるんですけど、そのかたちも結局は魚みたいなものになるんじゃないかなと。だいたい機械ってのは動物のかたちから学んだりしてますからね。まあ、そんな僕の想像の産物です。


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図4 メインスクリーン 投影されているのは《Life》


2 出品作について

—- そんなファンタジーが詰まった宇宙空間で、今回は3方向への映像投影に挑戦しましたね。これまでは複数の映像を同時に投影というインスタレーションは?

照沼 いえ、今回が初めてです。今まではたいていひとつのスクリーンやディスプレイでやってましたから。やっぱり映像をメインに作家活動しているからには、このくらいのことをやってみたいとは常々思っていました。だいたいうまくいったと思っています。

—- メインスクリーンには3つの映像作品が順番に映し出されていますね(図4)。

照沼 まず《終わりのない初まりの夢》(図5)は、昨年作ったものです。冒頭に出て来ることばがテーマそのもので、「OUROBOROS(ウロボロス)」、つまり終わりもはじまりもない、ぐるぐると流転する世界という意味です。僕の分身ともいえる、片目にレンズをつけたキャラクター「ミエテルノゾム君」(7)が街を旅していきます。ほんとうは原発事故のことを表現したかったのですが、直接的に表現するのはいやで、重力がこわれて空から雲が落ちてきて街が破壊され、そして再生されていくという設定にしました。


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図5 《終わりのない初まりの夢》より 2014年 映像 3分35秒

—- 背景の都市の画像は、平面作品を使っているのですか。

照沼 はい、前の年の個展(8)で描いた絵を撮影して使っています。鉛筆でダーッと長く描いて。A3横サイズで縦3枚、横14枚くらいかな。

—- 画材は何を?

照沼 これは鉛筆ですね。鉛筆は描くのが早いし、細かく描けるのでよく使います。鉛筆って色が薄いじゃないですか。だから作品作って売るとなるとなかなかツラいので…ドローイングの扱いになっちゃいますよね。でも一番愛着があります。長く使っているので。

—- 《終わりのない初まりの夢》に続いて投影される今年制作の映像作品ふたつは、より抽象的なかたちが多く使われたり、色も今までの使われ方とは違ってきているように思えます。

照沼 そうですね。このふたつは実写を取り入れています。《Toride》(図6)は、取手でのレジデンスで2週間くらいで制作した映像なんですけど、利根川のほとりに「小堀の渡し(おおほりのわたし)」というのがありまして、昔、隣町とを繋ぐ住民の足として通勤・通学や、日常生活に使われてたそうです。今は観光船として運行してて、それを撮影して、船の動きとか人の動きをトリミングしたり加工したりして作品に使っています。
あと最近、過疎化が話題になっていまして、それと船の車内アナウンスで聞いた利根川でのイベント紹介で、「子供天国」というフレーズが耳に残り、それは、なんぞや?と想像して、だから作品では、子供の形がもやもやと出て来て、色と遊んで街が、だんだんと明るくなってくような抽象的なイメージで作った作品なんです。


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図6 《Toride》より 2015年 映像 2分8秒


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図7 画像上辺、階段上の平面作品

—- 《Toride》の背景には、階段上に掛けられている絵が使われているんですよね(図7)。これは布に…。

照沼 ペンキで描いてます。ペンキもよく使うんですが、卒業制作のときに使ったのが初めてです。ライヴペインティングをやろうってなったときに…僕、なんでも思いつきで、その時になって使うんで。

—- そして次の《Life》(図8)では、過去の作品と《Toride》のイメージが重なっているような感じですね。


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図8 《Life》より 2015年 映像 2分5秒

照沼 これは、冒頭で《Toride》の映像にも出て来た渡し船が宇宙に飛んで行くところからはじまるんですけど、「生活」がテーマになっています。宇宙にこんな都市が造られても、結局人間のすることはそんなに変わらないだろうと。自然を壊して戦争して政治もごたごたあって、でもそんなことおかまいなしに楽しいことして、っていう、僕の予想というか考えで…まあそんな自虐的なことばが出てきます。
で、今回は詩を英語にしてみたんですが、映像のなかでは字幕みたいな感覚で、ネオンサイン風に日本語の文字を出して、読んでもらえるようにしています。

—- カラフルな人物が映像にたくさん登場しますね。

照沼 ここでは、著作権の切れている昔の映画のシーンを切り取って加工して使っています。

—- なるほど。やはり《Toride》は象徴的ですね。実写を加工・合成して取り入れることで抽象的なイメージが強くなっていて、色の使い方も変わってくる。このレジデンスでの成果が次の《Life》に、技法的にもつながっていると。

照沼 はい。

—- そういえば、照沼さんのメインキャラクター「ミエテルノゾム君」の現れ方が、新作では少し変わっているように思えます。《終わりのない初まりの夢》ではメインキャラとして登場しますが、《Life》では、サブキャラのような役割を演じていますね。

照沼 ああ、最後にちょこっと出てくるやつ。あれは、2013年に作った木箱の作品(9)を背景に使っているので、そこにいるんです。木箱の一連の作品は、ミエテルノゾム君が必ずどこかにいるというものだったんで。

—- かわりに、《Toride》に出てくる、ぼんやりした子供のイメージが…。

照沼 はい、《Life》にも、《惑星の端》(図9)と《不器用な矢は飛び続ける》(図10)にも、かたちを変えてそのまま反映されています。


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図9 《惑星の端》 2015年 映像 1分


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図10 《不器用な矢は飛び続ける》より 2015年 映像 2分

—- 抽象的な、生命そのものを表現しているようにも思えますが、この子供も、やっぱり自分の分身みたいな意味合いはあるんですかね。

照沼 まあ、そうですね。今回はあまり眼のことに関する話じゃなかったんで、ミエテルノゾム君がメインというかたちにはしたくなかったんです。ただ、新しいキャラクターを生み出そうとしたんですけど、うまくいかなくて、抽象的な存在になりました。キャラが前に出るとどうもよくないような気もして…最近(ゆるキャラなどの)かぶり物が多いじゃないですか。別にそれに乗っかるつもりもないので(笑)。

—- 《惑星の端》に出て来る子供のキャラクターは、他のよりも比較的具体的なメッセージを背負って出て来ますね。

照沼 あの子供は、ビッグバンで出来た惑星の種みたいなものをイメージしています。そのまわりの世界、つまり惑星の端は、やっぱり宇宙だということで、展示空間を宇宙にしてしまったわけです。まあ惑星は球体なので、どこが端かよく判らないという見方もできて…。いかにもあいまいなものですね、「端」って。

—- そもそも今回、惑星だったり宇宙だったりというテーマがあらわれてきたのは、なぜなんですか?

照沼 ええと、僕が30歳になったときに、《人生の縮図》(9)という作品をつくったんです。そのあと「夢」、そしてこんどは「Life」と、なんだかテーマがどんどん大きなものになっていって、まあ最終的には宇宙くらい大きくてもいいかなと。

—- 30歳でそんな節目を感じてしまったんですか。

照沼 はい(笑)。


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3 制作のエッセンス

—- 今回、制作のようすを拝見していて、絵画を制作すること自体へのこだわりは、ものすごくあるように感じるのですが、自分の作品を残そうという意識は、どうでしょう。

照沼 いや残したいけど、残らないですね(笑)。アキバタマビのとき(10)も24m描いたけど(図11)、結局残らないです。3×6のコンパネ何枚も、保存場所に困りますから。


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図11 「A NEW NORMAL」展示室外の廊下、照沼敦朗作画の壁画 2010年 アキバタマビ21(アーツ千代田)にて

—- なんだかもったいないような気も…。さて、どうも造形とか映像のことばかり聞いてしまいますが、映像に乗せて放たれる音楽と詩もやはり大事な表現の要素ですよね。作曲の機材はどんなものを?

照沼 作曲に関しては、Macのソフトや関連機材でやってます。特別なものはなくて…まあ単純なものが一番使いやすいので。僕は機械オンチだから(笑)。

—- えー。映像やってる人なのに。音楽づくりはいつ頃から始めたんですか。

照沼 音楽は、大学で映像を作り始めてからですね。2年生くらいかな。最初はピアノを生録音して使ってました。

—- もともと音楽やってたんですよね。小・中学の時は吹奏楽部だったとか。だから音楽のベースみたいなものはすでにあったと。

照沼 ええ、まあ。

—- 作品づくりの過程で、詩と音楽はどんな関係になっているんですか。

照沼 まず詩が絶対先にあって、音楽はそれに合わせて、暗いとか明るいとか、雰囲気をつけていくものみたいな感じですね。

—- 音楽は世界観を表すために作り込んでいくものだと。

照沼 そうです。


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—- わりと気に入っている音って、決まってきませんか。

照沼 重厚な音が好きなので、電子音とかパイプオルガンとか…。ほんとうはオーケストラを使いたい。なかなか明るい音にならないんですよね。

—- で、詩なんですが、照沼さんの作品はやはりことばがとても大事な役割を果たしていると思います。単なるつぶやきのようでもあり、シニカルなメッセージのようでもあり。とらえ方によってずいぶん印象の変わることばたちだと思います。そういうところもやはり自分らしさとして持っておきたいところでしょうか。

照沼 そうですね。もともと小さい頃から詩を書いたり、ずっと日記を書いたりしていたので。作品を作るときは、最初はキャッチフレーズというか、ことばを色々書き出して、そこから詩を作って、音楽ができて、そこに映像を作り込むという制作方法をとることが多いです。でも《終わりのない初まりの夢》みたいに、まず背景の平面作品があって、そこから詩を書いて、そして音楽、という場合もあります。

—- そうそう、音楽とともに聞こえる詩の声は、ご自分の声ですか。

照沼 そうです。機械を通してエフェクトをかけて。なにしろ絵も描くし詩も書くし音楽も作るしで、何でもひとりでやらなきゃいけないから大変です。

—- 山下裕二さん曰く「自画・自刻・自摺」の作家ということですね(11)

はい(笑)。


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4 これからの照沼ワールド

—- 照沼さんの映像作品を学生時代からみていくと、造形のスタンスは、初期のクレイアニメを取り入れたものから、徐々に平面へ、つまり絵画や実写の画像、ディスプレイ上の表現へと変化しているようにみえます。この変化はわりと自然におこっていったのでしょうか。

照沼 まあ、そうですね。意識したことはないです。

—- またクレイアニメみたいなことをやってみたいと思います?

照沼 どうですかねえ。次のプロジェクトが、壁に絵を描いてそれをもとに映像を構成するみたいなことなんで、またペンキで描くのかなあ。最近はやはり絵画を映像に撮って合成するというやりかたが増えているように思います。

—- 新作では実写を取り入れましたが、ほんとうは手描きにこだわりたいところもある?

照沼 はい。出来ることならアナログでやりたい。デジタルにはあまり頼りたくないです。手で描いたほうが愛情がわくというか。まあ限られた時間でどうやるかも常に考えてやらないと…。

—- それから、今回の出品作《終わりのない初まりの夢》みたいな、社会的な問題をテーマにした作品づくりというのは、ずっと意識してこられたことでしょうか。

照沼 そうですね。ニュースで見た事件とか、社会問題みたいなことはけっこう作品に入れ込んでいます。一番強烈だったのは《デスドミノ》(2005年)かな。《キロウサギ》(2008-9年)は、イギリスのニュースで、高速道路で横転したトラックから逃げ出したウサギの話があったんですけど、それをウサギ目線で人間の行動をシニカルに捉えるというようなものもつくってます。

—- やっぱり、正面きってメッセージを訴えるのではなく、ちょっと斜に構えて、ぼそぼそとつぶやくような…。

照沼 そうですね。ちょっと気付けよ、見りゃわかるだろ、みたいな。


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—- そんな照沼さんが、今後取り組みたいテーマは、何かありますか?

照沼 テーマねえ…。「Life」の次は、幸福かなあ。ああ、なんだか危ない方向に…(笑)。

—- そうそう、先日、多摩美術大学美術館の小林宏道さんがギャラリートークにいらしていて、「惑星の端」っていうタイトルがいい!とおっしゃっていました。

照沼 え〜、けっこう自虐な気がするけど…。

—- つまり「端」というのは、中心に対する周縁というよりは、別の世界とつねに接する、実体のない皮膜のようなものだと。

照沼 ああ。まあ今回のインスタレーションでは、外の世界に通じるドアもありますしね。

—- で、その皮膜がスクリーンそのものなんだと。照沼君はそこまで考えている。まさに映像作品のテーマにふさわしい!とのことでした。

照沼 ははああ、すごいなあ、そこまで考えてもらったなんて(笑)。いいなあそれ。

—- さて、直近の展示では、アキバタマビ21での映像作品展示(アキバタマビ映像特別展(仮) 7/25-9/6)がありますね。

照沼 はい、そこでは《終わりのない初まりの夢》を出品する予定です。出品作家が31人もいるんですが、多摩美術大学の70周年を記念して開催される展覧会です。

—- その後は?

照沼 9月に取手アートプロジェクトの仕事で、取手駅前のロータリーに映像を写すっていうのをやることになってるんです。それもレジデンスで新作を作る予定です。

—- もりだくさんじゃないですか。

照沼 まあ…(笑)

—- 例えば、まだ実現していないけれど、今後やってみたい、チャレンジしてみたいことはありますか?

照沼 そうですねえ…舞台をやってみたいです。

—- 舞台!?

照沼 はい。現代劇みたいなものを。僕がシナリオを書いてつくって、いろんな人が踊ったり演じたり。で、背景を僕が描くというのを、機会があればやってみたいですね。

・いっそ主役もどうですか。「自画・自刻・自摺・自演」で。

照沼 いやそこまでは(笑)。


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ーーーーーーー

惑星の端

私は塊(つちくれ)
生物や動物を宿す惑星になれるか
ただ毒素を吐くことしか出来ない惑星になるのか
私という塊は得体の知れない固まり
私の生まれたキッカケが
運命とか必然偶然の確率の問題より
私の上で成り立つ生命の物語を
この目で見てみたい
私が産まれたきっかけを話せる時
それは君達が私のことを見つけた時
私は輝いて見えるだけの惑星でない事を
その目で足で確かめに来てほしい

—-映像作品《惑星の端》2015年 より—-

ーーーーーーー

近年、「ミエテルノゾム君」という作家の分身ともいうべきキャラクターが雑踏のなかを闊歩するという、スタイルのはっきりした作品づくりが目立った照沼は、今回あえてそこから離れることにしたようだ。彼は福沢一郎のアトリエに、新作の映像ばかりでなく、わき上がるさまざまなアイデアをこれでもかと詰め込んだ。結果、会場全体が彼なりの「宇宙」というファンタジーで満たされ、アトリエ然とした内観はほとんど姿を消してしまった。薄暗い展示空間は、彼を衝き動かしてきた「視覚」への根本的な問いかけを彷彿とさせつつも、膨張し拡散していく作家の新たな「宇宙」を感じさせるものとなった。
屈託のない笑顔が印象的な作家は、シャイなわりに、何事にも臆せずトライする肝っ玉の持ち主である。福沢一郎という美術史上の存在、そしてクセのあるアトリエという空間にまったくひるむことなく、自分自身のやりたいことをやりきるというある種の見本を、彼は示してくれた。これは後に続くであろう多くの作家たちにとって、大きな励みとなるに違いない。
さて、照沼の今後の活動はどのように展開していくだろう。再び「ミエテルノゾム君」となって、見えそうで見えない雑踏の中へ分け入っていくだろうか。それとも、新たな宇宙を開拓するため、深海魚のすがたをした宇宙船で未知の世界へ旅立っていくだろうか。いずれにせよ、今回の展示が、彼にとってひとつのステップとなり、次の実りを準備してくれるなら、それが何よりと思う。(伊藤佳之)

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インスタレーションの360°パノラマビューは以下のリンクから↓
http://photosynth.net/view/2b6c6b4c-e231-4e8e-ab58-2f0484ada39e


1 照沼敦朗個展「夢の歩き方」@新宿眼科画廊、2014年12月12日〜17日。
2 「ごった煮」展@新宿眼科画廊、2015年1月23日〜28日。参加アーティスト:清水大 / 内田佳那 / カトコト / 照沼敦朗 /BUNNY BISSOUX / ene / カミクボユウスケ / ササベ翔太 / タカハシユリ / もり いちか / 平井さぶ / 依田梓 / 羽多野加与 / 河原奈苗 / 久保萌菜 / 宮田瑞稀 / 三ツ井優香 / 山田裕介 / 若杉真魅 / 松丸陽子 / 舛屋早矢香 / 前田祐作 / 村田エリー
3 黄金町夏の陣実行委員会《黄金町vs拝借景 夏の陣》@黄金町高架下スペース(横浜市)+拝借景(取手市)、2014年8月1日〜11月3日。会期中を3期に分け、観覧者の投票で黄金町と拝借景双方のアーティストの勝敗を決める。負けた側は買った側の要求をのまなくてはならない。結果は拝借景の勝利となり、参加作家が期間限定で黄金町と拝借景のレジデンススペースを交換することとなった。照沼は黄金町側のアーティストとして2月に拝借景に滞在し、作品制作をおこなった。
4 「拝借景×黄金町交流展2015(仮)」@コンフリ(取手市)、2015年3月5日〜21日、参加アーティスト:杉山孝貴 / 照沼敦朗 / 山田裕介 / 吉本伊織
5 「拝借景×黄金町交流展2015(仮)」@八番館(横浜市)、2015年3月29日〜4月5日、参加アーティスト:阿部乳坊 / 市川ヂュン / 荻原貴裕 / 葛谷允宏 / 杉山孝貴 / 照沼敦朗 / 山田裕介 / 吉本伊織
6 「黄金町バザール2012」@横浜市初黄・日ノ出町地区各所、2012年10月19日〜12月16日。照沼の展示は「八番館」にて開催。
7 「ミエテルノゾム君」は、照沼が大学生のときに作品制作を通じて生み出したキャラクター。片方の目に複数のレンズのついた単眼鏡をはめている。作家自身が弱視であることから、世界の見え方が他人と違うことや、遠くでぼんやりと見えていたものが近づいてみると全く予想と違ったものだったことなどの体験をふまえ、「全てが見えることを望む」という作家の願いや、そこから生まれる世界観のズレなどを体現する存在である。
8 照沼敦朗ー破壊と再生 オムニバスー展@Gallery Jin Project(アーツ千代田3331内)、2013 年10月4日~20日。
9 《World in microcosm II》2012年、映像、3分35秒、DVD『人生の縮図 World in microcosm I&II』所載。
10 アキバタマビ21 プレ・オープン展 「A NEW NORMAL」@アキバタマビ21(アーツ千代田3331内)、2010年5月8日〜6月6日。照沼はこのとき、展示室外の廊下の壁に、長さ24mにわたる長大な壁画を描いた。
11 山下裕二「vol.91・92 照沼敦朗『自画・自刻・自摺』のアニメーション(上・下)」〈山下裕二の今月の隠し球〉、『美術の窓』第346・347号、2012年6・7月。

※ 図番号のない画像は、すべて会場風景および外観

メールマガジン第8号(2015年5月18日発行)

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福沢一郎記念館 メールマガジン No.8
FUKUZAWA Ichiro Memorial Museum
– Setagaya,Tokyo
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□■□  現在当館は、閉館中です  □■□
■□■ 次の開館は5月末の予定です ■□■

[1] 「PROJECT dnF」第1回 照沼敦朗「惑星の端」 
[2] ココで観られる福沢一郎作品
[3] コラム 福沢一郎の書架から(8)
[4] 賛助会員のお誘い

————————————————————————————
[1]
□ 2015年春の展示
 「PROJECT dnF -「福沢一郎賞」受賞作家展-」
  第1回 照沼敦朗「惑星の端」
————————————————————————————

歴代の「福沢一郎賞」受賞者に記念館のギャラリーを個展会場
として提供する試み「PROJECT dnF」がはじまります。
この春は、照沼敦朗(2007年受賞)と室井麻未(2014年受賞)
のふたりが展示をおこないます。今号では照沼敦朗(てるぬま
・あつろう)をご紹介しましょう。

照沼敦朗は多摩美術大学油画専攻の卒業生ですが、在学中から
平面作品よりもアニメーションの制作に力を入れてきました。
2008年から本格的に作家活動を開始、ギャラリーでの個展や
グループ展のほか、映像作品のコンペティションにも積極的に
参加してきました。2011年、「第14回岡本太郎現代美術賞」展
で、映像を取り入れたインスタレーション「見えるか?」が特
別賞を受賞します。
照沼の映像作品は、モノクロームを基調として、都市の雑踏の
なかをキャラクターが旅するような趣向でつくられてきました。
そこには巨大な構造物としての都市と、そのなかでうごめく人
間の存在が、「視覚」の問題を中心にえがかれます。視覚で捉
えられる世界とその裏側にあるさまざまな問題を、時にはあか
らさまに、時にはひそやかに、うねるようなタッチを活かした
映像で表現しています。
今回、照沼は3つの映像に平面作品を組み合わせたインスタレー
ションを制作します。特に映像は、これまで前面に出ることの
少なかった鮮やかな色彩が、造形表現の大きなポイントなって
います。
福沢一郎のアトリエで、作家の意欲的な試みはどんなすがたを
あらわすのでしょうか。ぜひご覧ください。

「PROJECT dnF -「福沢一郎賞」受賞作家展-」
第1回 照沼敦朗「惑星の端」の開催予定は以下のとおり。

5月28日(木) – 6月10日(水) 11:00 – 17:00 無休
オープニングレセプション 5月30日(土)17:00 – 19:00
ギャラリートーク 5月31日(日)14:00 – 15:00

作家の公式ホームページはこちら。
http://www.terunuma-atsuro.com/

室井麻未(むろい・まみ)のご紹介は次号にて。乞うご期待。
記念館ホームページで展覧会の日程等をご覧になれます。
https://fukuzmm.wordpress.com/2015/04/28/dnf_1terunuma_2muroi/

※福沢一郎作品も、奥の部屋に展示いたします。こちらもぜひ
お楽しみください。

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[2]
□ ココで観られる福沢一郎作品
《アニョロ・ブルネレスキを襲う蛇》 1974年
 アクリル・カンヴァス 227.3×181.8cm
 群馬県立近代美術館蔵

「六本足の蛇が一匹彼らの前に飛び出すやいなや、三人の亡者
の一人アニエルの身体に前からぴったりと張りついた。(中略)
そして、見ているうちに、まるで熱せられた蝋のように両者は
密着し、両方の色もまじり合い、両者とも以前とはまったく別
のものになってしまった。(中略)それは蛇のようでもあり、
また人間のようでもあったが、同時にどちらでもないような奇
怪な像をもっていたが、やがてゆっくりと歩き去った。」

ダンテ『神曲物語 上巻』(野上素一訳、現代教養文庫、社会
思想社、1968)の一場面です。盗人が堕ちる地獄でダンテが出
会ったのは、名門の出ながらフィレンツェの街で盗みをはたら
いていた者達でした。この地獄では蛇に噛みつかれた者が蛇に
姿を変え、噛みついた側は人の姿に戻るという悪夢のような業
苦が永遠に続くのです(第二十五曲)。
蛇が人にからみつき、変容していくこのすさまじいシーンを、
福沢はそれ空虚な風景のなかに大きく描き出しています。背景
にみえる大きな壁のような物体は、まるでロダン《地獄の門》
の裏側のようにもみえます。
蛇と人とが溶け合ってひとつになる直前のワンシーンを描くた
めに、福沢は医学書の類から骨格図や筋肉の構造図を引用した
のではないかと考えられています。『解剖学及び外科学著作集』
(原題Opera Omnia Anatomica&Chirurgica, 1725年刊、
オランダ)所載の図版(fig.597)には、本作品とほとんど同
じポーズの人体図があります。また、同じシーンを描いた《蛇
となるアニョロ》(1974年、同館蔵)も、『人体の構造』(原
題De humani corporis fabrica, 1543年刊、バーゼル)
所載の骨格図(p.190)とほぼ同じポーズで描かれています。
造形化が非常に難しい奇想天外なシーンを描くのに、画家が近
世の解剖図を引用したのは、溶けてからみあう肉体の構造から
イメージを広げようとしたのでしょうか。それとも、解剖図が
もともと持っている「死」という寓意的な側面に興味をそそら
れたのでしょうか。
背景の「地獄の門」らしきかたちも含め、いろいろ考えさせら
れる作品です。

本作品は、群馬県立近代美術館のコレクション展示「福沢一郎
ー物語を描くー」にて展示中、6/21まで開催。
展示作品目録(PDF)もダウンロード可能です。

トップページ

作品画像は、当館ホームページの「作品集」から。
https://fukuzmm.wordpress.com/works/

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[3]
□ コラム 福沢一郎の書架から(8)
 
本間正義『随想 ハイトマルスベル』 形象社 1989年

著者の本間正義(1916-2001)は、福沢一郎とゆかりの深い
美術館人のひとりです。東京帝国大学在学中には福沢の絵画研
究所に通い、作画の指導を受けました。戦後は東京国立近代美
術館で学芸員として活躍し、国立国際美術館館長、埼玉県立近
代美術館館長を歴任しました。
この随想集は、『毎日夫人』という月刊誌の連載「芸術随想」
の原稿を中心にまとめられており、著者の美術館人としての見
識の深さや人脈の広さだけでなく、ピリリと効いたウィットと
柔軟な文章力がいかんなく発揮された好著です。
もちろん福沢一郎についての記述もあり、研究所で絵を学んで
いるとき、白皙のプロフェッサーのような「アポロ的」な風貌
と、理屈からはみ出たロマンを求める「ディオニソス的」思考
の両方をみたと述べています。この福沢に対する著者の印象は
後々まで変わることがありませんでした。
さて、この随想集のタイトル「ハイトマルスベル」とは何か。
これはある連載原稿のタイトルで、何やら格調高いドイツ語の
単語のようにも思えますが、実は「昔はやった疑似外語」、つ
まり外国語のように聞こえる駄洒落のようなもので、ハエがと
まれないほどつるつるの禿頭を指すのだそうです。著者自身の
いわば自虐ネタなのですが、ともすれば固い調子になりがちな
連載が、「ハイトマルスベル」執筆後は自由でソフトなものへ
と変わっててきたそうです。
この随想集を献呈された福沢は、どんな面持ちで読んだことで
しょう。かつての生徒のテストを採点するかのように、アポロ
的な理知をもって挑んだでしょうか。それとも、そのウィット
にディオニソス的な笑みを浮かべていたでしょうか。どちらも
福沢らしいような気がします。やはり著者の眼は、福沢一郎の
本質を見抜いていたのでしょうね。

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[4]
□ 賛助会員のお誘い

一般財団法人福沢一郎記念美術財団では、その美術振興活動を
より広範囲に、積極的にすすめるために、賛助会員を募ってい
ます。
一人でも多くの方に参加していただくことで、若い美術家の顕
彰、美術研究への助成など財団の活動が充実しますので、どう
ぞよろしくお願いいたします。

◯賛助会員の区分と会費
(1) 一般会員 3,000円(年会費)
(2) 維持会員 30,000円(年会費)
(3) 特別会員 300,000円(永久会員)

◯特典
(1) 福沢一郎記念館入館料無料
(2) 福沢一郎記念館ニュース送付
(3) 記念館主催の催し物に優先的にご招待

◯会費のお振込先
●郵便局振替口座 00190-2-695591
 福沢一郎記念館
●りそな銀行 祖師谷支店 普通口座 1000201
 (一財) 福沢一郎記念美術財団

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福沢一郎記念館 メールマガジン No.8
2015年5月18日発行
編集・発行 一般財団法人 福沢一郎記念美術財団

福沢一郎記念館

【ホームページを移転しました】


facebook: https://www.facebook.com/fukuzmuseum

Copyright(c) 2014-2015 FUKUZAWA ICHIRO MEMORIAL FOUNDATION
All Rights Reserved.

※バックナンバーは記念館ホームページでご覧いただけます。
※配信停止を希望される場合はそのままご返送ください。
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【展覧会】「PROJECT dnF」第1回 照沼敦朗「惑星の端」、第2回 室井麻未「ある景色」




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福沢一郎記念美術財団では、1995年から毎年、福沢一郎とゆかりの深い多摩美術大学油画専攻卒業生と女子美術大学大学院洋画専攻修了生の成績優秀者に、「福沢一郎賞」をお贈りしています。
この賞が20回めを迎える2015年、当館では新たな試みとして、「PROJECT dnF ー「福沢一郎賞」受賞作家展ー」をはじめます。
これは、「福沢一郎賞」の歴代受賞者の方々に、記念館のギャラリーを個展会場としてご提供し、情報発信拠点のひとつとして当館を活用いただくことで、活動を応援するものです。

福沢一郎は昭和初期から前衛絵画の旗手として活躍し、さまざまな表現や手法に挑戦して、新たな絵画の可能性を追求してきました。またつねに諧謔の精神をもって時代、社会、そして人間をみつめ、その鋭い視線は初期から晩年にいたるまで一貫して作品のなかにあらわれています。
こうした「新たな絵画表現の追究」「時代・社会・人間への視線」は、現代の美術においても大きな課題といえます。こうした課題に真摯に取り組む作家たちに受け継がれてゆく福沢一郎の精神を、DNA(遺伝子)になぞらえて、当館の新たな試みを「PROJECT dnF」と名付けました。
今回は、ふたりの作家が展示をおこないます。学生時代から映像表現に取り組み、平面や立体の作品とあわせてモノクロームの雑踏を思わせるインスタレーションをおこなってきた照沼敦朗(多摩美術大学卒、2007年受賞)と、ゆるやかに解きほぐされたような形態を、鮮やかな色彩によって重層的に描く室井麻未(女子美術大学大学院修了、2014年受賞)です。
かれらは福沢一郎のアトリエとで、どのような世界をつくりあげるのでしょうか。

なお、アトリエ奥の部屋にて、福沢一郎の作品・資料もご覧いただけます。今回は1950〜80年代の珍しい小品5点と、福沢愛用のカメラや書籍資料を展示しております。


第1回
照沼敦朗「惑星の端」

これまで、モノクロームを基調とした都市の雑踏をキャラクターが闊歩する映像や平面作品を多く手がけてきた照沼は、今回、より抽象的なイメージと鮮やかな色彩を取り入れた映像作品を発表します。この映像とドローイング、ペインティングによるインスタレーションが、福沢一郎のアトリエ内に繰り広げられます。

作家公式ホームページ http://www.terunuma-atsuro.com/

5月28日(木)- 6月10日(水) 11:00 – 17:00
会期中無休
オープニングレセプション 5月30日(土) 17:00 – 19:00
ギャラリートーク 5月31日(日) 14:00 – 15:00

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照沼敦朗 《Life》  2015年 映像 2分5秒


第2回
室井麻未「ある景色」

視覚で捉えられる世界と、そのあいだ、そのむこうにある世界。室井は両者のはざまを揺れ動きながら、その揺れ幅を塗り込めるように、ゆるやかな「絵画」のありようを探りつつ制作します。今回は新作を中心に、近年の探究の成果を発表します。

6月15日(月)- 28日(日) 11:00 – 17:00
会期中無休
オープニングレセプション 6月20日(土) 17:00 – 19:00
ギャラリートーク 6月21日(日) 14:00 – 15:00

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室井麻未 《船》 2015 年 油彩・キャンバス 259.0×194.0cm



メールマガジン第7号(2015年4月16日発行)

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福沢一郎記念館 メールマガジン No.7
FUKUZAWA Ichiro Memorial Museum
– Setagaya,Tokyo
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[1] 「PROJECT dnF -福沢一郎賞作家-」 
[2] ココで観られる福沢一郎作品
[3] コラム 福沢一郎の書架から(7)
[4] 賛助会員のお誘い

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[1]
□ 2015年春の展示
 「PROJECT dnF -福沢一郎賞作家-」
  ー21年めのあらたな試み
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前号で予告しておりました、今年春からはじまる当館でのあら
たな試みについて、お知らせいたします。

福沢一郎記念美術財団では、1995年から毎年、福沢一郎とゆか
りの深い多摩美術大学油画専攻卒業生と女子美術大学大学院洋
画専攻修了生の成績優秀者に、「福沢一郎賞」をお贈りしてい
ます。
この賞が20回めを迎える2015年、当館では新たな試みとして、
「project dnF ー福沢一郎賞の作家たち」をはじめます。
これは、「福沢一郎賞」の歴代受賞者の方々に、記念館のギャ
ラリーを個展会場としてご提供し、情報発信拠点のひとつとし
て当館を活用いただくことで、活動を応援するものです。

福沢一郎は昭和初期から前衛絵画の旗手として活躍し、さまざ
まな表現や手法に挑戦して、新たな絵画の可能性を追求してき
ました。またつねに諧謔の精神をもって時代、社会、そして人
間をみつめ、その鋭い視線は初期から晩年にいたるまで一貫し
て作品のなかにあらわれています。
こうした「新たな絵画表現の追究」「時代・社会・人間への視
線」は、現代の美術においても大きな課題といえます。こうし
た課題に真摯に取り組む作家たちに受け継がれてゆく福沢一郎
の精神を、DNA(遺伝子)になぞらえて、当館の新たな試み
を「PROJECT dnF」と名付けました。
今回は、ふたりの作家が展示をおこないます。学生時代から映
像表現に取り組み、平面や立体の作品とあわせてモノクローム
の雑踏を思わせるインスタレーションをおこなってきた照沼敦
朗(多摩美術大学卒、2007年受賞)と、ゆるやかに解きほぐさ
れたような形態を、鮮やかな色彩によって重層的に描く室井麻
未(女子美術大学大学院修了、2014年受賞)です。
かれらは福沢一郎のアトリエとで、どのような世界をつくりあ
げるのでしょうか。

おふたりの展覧会については、当館ホームページ内で詳しい内
容やイベントの日程等をお知らせいたします。
どうぞご期待ください!

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[2]
□ ココで観られる福沢一郎作品
《父と子》 1937年 油彩・カンヴァス
 28×20cm 板橋区立美術館蔵

グレーを基調にした空間に、男性と思しき人物が、小さな子供
を肩車して立っています。光源は背中のほうにあり、顔は逆光
のため暗い蔭が落ちてよく見えません。子供は無邪気に男の頭
にしがみついていますが、男のほうはややうつむき加減で、動
きを感じさせないポーズです。その右足の奥には、毬のような
丸いものが転がっています。《父と子》という温かな雰囲気の
題名とはうらはらに、やや寂しげな、空虚な印象を受けます。
この作品が描かれた1937年は、盧溝橋事件により日中戦争が勃
発し、日本が大規模な戦争へと突き進むことが決定的となった
年です。こののち徴兵によって多くの若者が戦地に赴くことに
なりますが、市井の雰囲気はさほど切迫感がなく、戦争を推し
進める政治にも肯定的な論調が多数を占めていました。
無邪気に遊ぶ子供を肩に乗せ、空虚な室内でうつむく男は、こ
の年2歳になる長男の将来への不安を敏感に感じていた福沢自
身のすがたではないでしょうか。戦勝ムードに占められた世相
を冷ややかに見つめ、いいしれぬ不安に対峙していた画家の視
線がうかがえる作品です。

本作品は板橋区立美術館の館蔵品展「近代日本の社会と絵画
戦争の表象」にて展示中、6/7まで開催。

作品画像は、当館ホームページの「作品集」から。

https://fukuzmm.wordpress.com/works/

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[3]
□ コラム 福沢一郎の書架から(7)
 
Leonardo da Vinci, Il codice Atlantico
(レオナルド・ダ・ヴィンチ『アトランティコ手稿』)
 原本1478〜1518年、刊行1974年、ファクシミリ版
 Giunti-Barbèra、フィレンツェ

「万能の天才」レオナルド・ダ・ヴィンチは、絵画、彫刻から
デザイン、解剖学や工学に至る幅広い仕事のために、膨大な数
のノートを書き遺しました。約40年にわたり書かれたノートの
枚数はおよそ15,000枚に及ぶといわれ、現在はその2/3がいく
つかの手稿集に分かれて編集され、今に伝わっています。
福沢の蔵書にある『アトランティコ手稿』は、これらの中でも
特に分野が多岐にわたることで知られています。原本はミラノ
のアンブロジーナ図書館に所蔵されており、研究者向けにファ
クシミリ版が刊行されたものを、福沢はわざわざ入手しました。
全12巻にわたる、とても大きくて重い書物です。
これは80年代初めの、レオナルドへのオマージュともいうべき
連作のために入手したもののようです。このファクシミリ版は
原本の再現が非常に忠実になされていて、ちょっとしたメモ書
きのような箇所であっても、きちんと裏も表も複写されていま
す。この手稿を当館で丹念に調査なさった山形大学教授の小林
俊介さんは、人の顔に図形のメモが裏写りしたり、レオナルド
の弟子サライが脇から描き足したようなものまで、福沢が作品
のなかに引用しているのを見つけました。80年代の「レオナル
ド連作」は、書物から着想を得るだけでなくそこに諧謔や諷刺
まで見出して自らの作品に取り込んでしまう「教養とユーモア
の凝縮されたシリーズ」であると、小林さんは語っています。
才気に富み多くの傑作を生み出しながら、かたやとんでもない
失敗もやらかしてしまうレオナルドに、福沢は敬意と愛着を覚
えていました。そのあゆみを追求した結果、そのイメージの源
泉たる手稿集にまでたどり着いてしまうところなどは、知的好
奇心に突き動かされるこの画家ならではのエピソードといえま
しょう。

本書は記念館書斎に配架中。ただし大型本のため、ご覧になる
には準備が必要です。ご希望の場合は前もってご連絡を。
また、「レオナルド連作」は記念館ホームページの「作品集」
に掲載中です。『記念館ニュース』第37号(2013年4月)掲
載の小林俊介さんによる講演記録も、ぜひお読みください。

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[4]
□ 賛助会員のお誘い

一般財団法人福沢一郎記念美術財団では、その美術振興活動を
より広範囲に、積極的にすすめるために、賛助会員を募ってい
ます。
一人でも多くの方に参加していただくことで、若い美術家の顕
彰、美術研究への助成など財団の活動が充実しますので、どう
ぞよろしくお願いいたします。

◯賛助会員の区分と会費
(1) 一般会員 3,000円(年会費)
(2) 維持会員 30,000円(年会費)
(3) 特別会員 300,000円(永久会員)

◯特典
(1) 福沢一郎記念館入館料無料
(2) 福沢一郎記念館ニュース送付
(3) 記念館主催の催し物に優先的にご招待

◯会費のお振込先
●郵便局振替口座 00190-2-695591
 福沢一郎記念館
●りそな銀行 祖師谷支店 普通口座 1000201
 (一財) 福沢一郎記念美術財団

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福沢一郎記念館 メールマガジン No.7
2015年4月16日発行
編集・発行 一般財団法人 福沢一郎記念美術財団

福沢一郎記念館

【ホームページを移転しました】


facebook: https://www.facebook.com/fukuzmuseum

Copyright(c) 2014-2015 FUKUZAWA ICHIRO MEMORIAL FOUNDATION
All Rights Reserved.

※バックナンバーは記念館ホームページでご覧いただけます。
※配信停止を希望される場合はそのままご返送ください。
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メールマガジン第6号(2015年3月16日発行)

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福沢一郎記念館 メールマガジン No.6
FUKUZAWA Ichiro Memorial Museum
– Setagaya,Tokyo
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□■□  現在当館は、閉館中です  □■□
■□■ 次の開館は5月末の予定です ■□■

[1] あらたな試み 福沢一郎記念館の展示が変わる!? 
[2] ココで観られる福沢一郎作品
[3] コラム 福沢一郎の書架から(6)
[4] 賛助会員のお誘い

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[1]
□ あらたな試み 福沢一郎記念館の展示が変わる!? 
 ー21年めの挑戦
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昨年、開館20周年を迎えた福沢一郎記念館は、今年あらたな試
みをスタートさせます。
多摩美術大学油画専攻の卒業生と、女子美術大学大学院美術専
攻(洋画・版画)修了生の成績優秀者にお贈りしてきた「福沢
一郎賞」が、今年20回めを迎えます。それを記念して、歴代受
賞者の皆様に当館を個展会場としてご提供する期間を設けるこ
とにいたしました。
作家の選定や実施期間などはまだ未定ですが、4月には皆様に
お知らせできることと思います。
また、このような試みをつうじて、画家福沢一郎とその作品が
けっして過去のものではなく、現在も息づいているということ
を、さらにお知らせできるよう、今後もささやかながら活動を
継続してまいります。

詳しくは当館ホームページにて。こうご期待!

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[2]
□ ココで観られる福沢一郎作品
《餓鬼のわるだくみ》 1972年 アクリル・カンヴァス
 179×227cm 愛知県美術館

濃く暗い藍色の空に、妙に明るい黄色の大地。強烈なコントラ
ストの風景に、おなかの大きな餓鬼たちが転がって、なにやら
相談をしているようです。手足と身体のアンバランスな餓鬼た
ちは、グロテスクではありますが、どことなく滑稽で、笑いす
ら誘うようなすがたで描かれています。
この作品の初出品は1973年の個展「地獄への誘い」(5/8-20、
東京セントラル美術館)です。同展出品作の多くは源信の『往
生要集』に着想を得て描かれた、地獄や餓鬼道の世界でした。
しかし、福沢はただ説話の場面どおりに描くことはしません。
彼はいくつかの餓鬼のすがたに、現代の世相を重ねています。
同展のカタログに寄せた福沢の文章には「往生要集をふみ越え
て私は現代散歩を試みたが、それ等の作はどこの国の事かなど、
せんさくする必要はない。ただ私の幻想であると申し上げてお
く。」とあります。社会のなかで愚かしくもたくましくうごめ
く人々のすがたを餓鬼に重ね、画家は諷刺といくばくかの愛情
をも込めて、この絵を描いたのかもしれないですね。

本作品は愛知県美術館のコレクション展示「グロテスク・モデ
ルヌ」にて展示中、4/5まで開催。企画展「ロイヤル・アカデ
ミー展」もあわせてどうぞ。

作品画像は、当館ホームページの「作品集」から。

https://fukuzmm.wordpress.com/works/

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[3]
□ コラム 福沢一郎の書架から(6)
 
サルバドール・ダリ著、足立康訳、瀧口修造監修
『わが秘められた生涯』、新潮社、1981年

いわゆる「シュルレアリスム」の画家として有名な、鬼才サル
ヴァドール・ダリの自伝です。1981年刊行と、ずいぶん新しい
書籍ですが、英語の初版が出版されたのは1942年のこと。その
後、瀧口修造による抄訳が1953年10月の『藝術新潮』に掲載さ
れましたが、単行本として出版されるまでじつに28年もの歳月
を必要としました。
1930年代、前衛美術の紹介者・擁護者として活躍していた福沢
は、著書や雑誌記事などで事あるごとにダリの紹介をおこなっ
ていますが、戦後になると「ダリをめぐって」(『美術手帖』
第14号 1949年2月)を最後にめぼしいものはなくなります。
自身をシュルレアリストではないと述べていた福沢にとって、
ダリは過去の人となっていったのでしょうか。
そんなダリの自伝を、80を超えた福沢はどんな気持ちで読んだ
のでしょう。先に挙げた「ダリをめぐって」で「何といっても
執拗でたくましくて描写力を持ち、独断と奇想に満ちた理屈を
こねる点で当代無比」とダリを評した福沢は、同じ時代を駆け
抜けた鬼才に、ある種の親しみをもっていたのかもしれません。

本書は現在新刊での発売なし。興味のあるかたは図書館または
古書店へ!

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[4]
□ 賛助会員のお誘い

一般財団福沢一郎記念美術財団では、その美術振興活動をより
広範囲に、積極的にすすめるために、賛助会員を募っています。
一人でも多くの方に参加していただくことで、若い美術家の顕
彰、美術研究への助成など財団の活動が充実しますので、どう
ぞよろしくお願いいたします。

◯賛助会員の区分と会費
(1) 一般会員 3,000円(年会費)
(2) 維持会員 30,000円(年会費)
(3) 特別会員 300,000円(永久会員)

◯特典
(1) 福沢一郎記念館入館料無料
(2) 福沢一郎記念館ニュース送付
(3) 記念館主催の催し物に優先的にご招待

◯会費のお振込先
●郵便局振替口座 00190-2-695591
 福沢一郎記念館
●りそな銀行 祖師谷支店 普通口座 1000201
 (一財) 福沢一郎記念美術財団

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福沢一郎記念館 メールマガジン No.6
2015年3月16日発行
編集・発行 一般財団法人 福沢一郎記念美術財団

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