所蔵作品選 絵からうまれることばたち 作品その1

※ふせんに書いてくださったことばをそのまま掲載しています。
※文字の色は、ことばが書かれたふせんの色です。

・こんな花鳥の世界へ行って見たい
・ああこの花の絵部屋に飾りたい

・人間のごく自然の姿
・何気ない普通の景色をスケッチしてみたい

・美しい花に鳥の声 動物のあしあと等 楽園を感じました。
・山川草木 悉皆仏性 いのちあるもの丶楽園
・花がこわい
・こんな柄のお洋服が欲しいなあ
・もわもわ ぎしぎし 田舎
・色が本当に昨日描かれたようにあざやかです!
・動物の中に人のような顔があり、自然の中にもあるように見える
 ナイトメアと一筋の光のようなイメージ
・花? 花火?

・花畑をみつめる花人間?
・アダムがりんこを食べる前の色彩から世界

・去りにし方をふりむいて、みれんはあれど前進す
・てんちそうぞう
・花園 楽園
・中心に描かれているものは「トマト」?

・一郎先生! この絵を描くのは楽しかったでしょうね。次から次へと描きたい物が頭に浮かんで来るのでしょうね。羨ましい限りです。
・もこもこ ざわざわ
・赤い花が4 いろいろな太陽 それぞれちがう意味 こわくて逃げる

・花がユニーク 色づかいがすごい
・右上の雲がせまりそっと身を隠す 2021 五輪と東京都民
・夢の中かな?(先生の)
・はなのえ
・ちょっとルオーっぽい感じ
・楽園 こんな世界に身を置いていたい!
・花はやっぱり
・カラーが素敵

・人間が本来取り持つ欲望とそれを調整する理性と人間精神の理想的なあり方が入り込んでいる。
・花がいっぱい
・花 神秘的な森
雲と天使と花たち。枝と山羊 黒い枝に鳥。わっと広がる雲。
・葉書で見た絵。もっと大きい絵と思った。花の世界
・青春、若々しい花ばなの色彩。バックの黒っぽい紺色が未来の不安を感じさせる。

・安らぎと自然な生活感なる想い。
・モンスター 雷雲 サソリ 空 葉っぱ 下に山?

・季節は夏なのかなと思った もくもく雲にトマト?
・夏の花 森を上から見下ろしている 南国
・おいしい たのしい あたたかい
・動物がユニーク
・色彩が鮮やかでとても美しい
・楽しい森の中 色んな音なんだろう
・雪の結晶? 静けさ
・安らぎと自然な生活感なる想い。
・いくつかの絵には生命力を感じる 力強さとやさしさがある
・けもの道
・夏の匂い すきまからあふれる
・もりにある1本の木のようです。くもの上の世界のようです。
・あの世とはこういう景色かナ
・花畑のようで素敵です
・色彩が鮮やかで想像力が沸いて美しい。個性的でいつ見てもひきつけられる
・色 色 色 色
・森の木陰 1本の大きな木に花が咲き鳥がさえずり古代が息づく
・色使いが華やかで連想させるのですばらしいです。
・生きる力
・大自然、楽園? ファンタジー? 神話
・ファンタジー?
・天国からの脱出
・お花がひとつひとつちがう!とりの線がとってもすき!
・色を重ねているのが近づくとよくわかります
・楽園 のどかなひととき


【ちょっとたねあかし】

《天地創造》
1973年頃 油彩、アクリリック・キャンバス 50.0✕97.0cm

 横に長い画面の上に、黒く太い線が何本も走っていて、花や葉っぱ、鳥、虫、動物、人などいろいろなかたちが、あざやかな色でえがかれています。
 画面右上のもこもこしたかたちは何でしょう? それから、画面左側の緑やピンク、黄色などで描かれた縦長のかたちは、何を表しているのでしょう? こういう不思議なかたちが、絵のなかの物語をどう読むか、につながってくるようです。
 作品のタイトルは「天地創造」。このことばを聞くと、旧約聖書の「創世記」にある天地創造の物語を思い浮かべる人も多いかもしれません。神さまが順番にこの世のものを作っていき、最後に人間を、自分のすがたに似せてつくったという物語です。そんな物語がこの絵のなかにあるとしたら、どうでしょう。自分の想像と似ていますか? それともぜんぜんちがいましたか?
 それにしても、画面左側の動物たちと、人間らしきかたちは、画面の大きさや、花など植物の大きさと比べて、ずいぶんひかえめです。これはどうしてなのでしょう? ぜひいろいろ想像してみてください。
 ちなみに、この作品は、ある家のステンドグラスの原画としてえがかれたものだそうです。黒い線とあざやかな色は、ステンドグラスのイメージを思いえがくために必要なものだったのかもしれませんね。


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「わたしの福沢一郎・再発見」  #003《原人のいぶき》

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《原人のいぶき》

1981年 アクリル・カンヴァス 200.0×600.0cm
富岡市立図書館 蔵

大竹夏紀
染色アーティスト

 私は福沢一郎の出身地である富岡市に生まれ、幼少期を過ごしました。そんな私にとって福沢一郎とは我が市民が誇る偉大な芸術家という印象です。その思いは子供のころから根付いたものです。市内の公共施設の至る所で福沢一郎の絵を目にしましたし、市の広報誌などにも紹介されていたと思います。市内には立派な福沢一郎記念美術館もあります。家族に聞くと、祖父の時代では小学校の遠足に福沢一郎の実家見学が遠足に組み込まれていたとか。何より周りの大人たちや学校の先生が、幼い私に場面場面で説明してくれました。みんなが偉大な芸術家を誇らしく思っているのがしみじみと伝わり、私の心にも根付いたのだと思います。
 福沢一郎の絵は、いわゆる田舎の市民が許容して考える普通の美しいだけの絵とは違ってかなり独特で個性的なものに感じました。神話や古代の男たちのゴツゴツした荒々しい姿。ちょっとこわい。でもパワフルでかっこいい!これが真の芸術か!なんて幼心に納得していました。
 福沢一郎の絵で一番印象に残っているのは、市立図書館に今でも飾られている《原人のいぶき》という幅6メートルにも及ぶ大きな絵です。古代人の家族でしょうか。青空の下で地面に寝転んだりくつろぐ姿が描かれています。力強くダイナミックで、広く清々しい世界観を感じます。子供のころは絵本を、小中学生になっても本を借りに行く度に、この絵を目にして、偉大な芸術家が同じまちにいたことをじんわりと誇りに思った、幸せな思い出です。

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Natsuki Otake

大竹夏紀(おおたけ・なつき) 染色アーティスト。1982年、群馬県富岡市生まれ。多摩美術大学大学院美術研究科デザイン専攻修了。ろうけつ染めによる絵画作品で注目を集める。2010年度東京モード学園テレビCMに作品が起用される。個展・グループ展多数。2014年第11回上毛芸術文化賞受賞。2016年富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館にて個展開催。
公式ホームページ http://bamboosummer.main.jp


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「わたしの福沢一郎・再発見」特設ページは、→こちら。

生誕120年に向けたキャンペーン「福沢一郎・再発見」の詳細は、→こちら。

【作品】 水瓜を持つ男 / Man with a Watermelon 1955年

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題名/title: 《水瓜を持つ男》/ Man with a Watermelon
制作年
/date:
1955年
技法・材質
/materials:
油彩・カンヴァス / oil on canvas
寸法/size: 130.3.0×97.0cm
所蔵
/collection
群馬県立近代美術館
Museum of Modern Art, Gunma
  1955年、つまり福沢が中南米旅行から帰国した翌年の作品である。この頃制作された「中南米シリーズ」には、パブロ・ピカソの影響がしばしば指摘される。1951年に開催されたピカソの大規模な個展は、1920年代のパリで発見したピカソ作品のちからを再認識させる契機となったのかもしれない。そして、中南米旅行で得た原初的な生命感を放つ人々のイメージと重なり、戦中から戦後にかけて失われていた、彼本来の力強い絵画を取り戻すことに成功したのではないだろうか。
翌年の《狩猟》ほど画面構成は洗練されておらず、旅行以前の作画から大きく変貌を遂げる道半ばという印象を受ける。画面との格闘のなかで、ピカソの再発見が、彼にとって大きな意味を持っていたと想像される。

【作品】卑弥呼宮室に入る / Himiko enters the Palace 1980年

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題名/title: 《卑弥呼宮室に入る》/ Himiko enters the Palace
制作年
/date:
1980年
技法・材質
/materials:
アクリル・カンヴァス / acrylic on canvas
寸法/size: 227.3×363.6cm
所蔵
/collection
世田谷美術館
The Setagaya Art Museum
  1980(昭和55)年頃から、福沢は古代日本の物語を画題とした作品を制作する。特に中国の歴史書『魏志倭人伝』に記された邪馬台国と、その国を統治したといわれる女王卑弥呼に強い興味を覚え、それに関するさまざまな書物を読みあさってイメージの源泉を得た。その成果は翌年3月の個展「福沢一郎 魏志倭人伝展」で発表される。
本作《卑弥呼宮室に入る》はその出品作中特に大きな5点のうちの一つで、強烈な赤が支配する群衆の中を、輿に乗ってあらわれる卑弥呼を描いている。画家曰く「ブラックホールに興味を寄せるのと同じ」ように、古代日本の世界に引き込まれ、その原初的な荒々しい生命を描き出した。

【作品】土井ヶ浜 / Doigahama 1964年頃

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題名/title: 《土井ヶ浜》/ Doigahama
制作年
/date:
1964年頃
技法・材質
/materials:
油彩・カンヴァス/oil on canvas
寸法/size: 32.8×67.2cm
所蔵
/collection
那覇市
Naha City
  福沢は、雑誌『太陽』の創刊から連載された特集「日本人はどこからきたか」「日本文化のあけぼの」の挿絵を担当している。考古学の最新の成果を盛り込み、喪失しかけていた日本人のアイデンティティを呼び覚ますこの特集で、画家は謎多き古代の人々を、力強く、より普遍的に、単なる説明図に陥ることなく描ききった。本作品は山口県下関市の土井ヶ浜遺跡(弥生時代)の発掘成果から、当時の戦闘の情景をイメージして描いたもの。福沢独特の群像表現があらわれている。

【作品】レダ / Leda 1962年

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題名/title: 《レダ》/ Leda
制作年
/date:
1962年
技法・材質
/materials:
油彩・カンヴァス/oil on canvas
寸法/size: 90.9×116.7cm
所蔵
/collection
群馬県立近代美術館
Museum of Modern Art, Gunma
  1959-62年の作品に特徴的な、黒一色のデカルコマニーを用いた下地を活かしながら、ゼウスの化身の白鳥とたわむれるレダが描かれる。この頃抽象表現への挑戦が一段落し、具象的描写による「主題絵画」へと踏み出した。

【作品】 虚脱 / Absentmindedness 1948年

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題名/title: 《虚脱》/ Absentmindedness
制作年
/date:
1948年
技法・材質
/materials:
油彩・カンヴァス/oil on canvas
寸法/size: 116.7×90.9cm
所蔵
/collection
群馬県立近代美術館
Museum of Modern Art, Gunma
まるで海の底を思わせるような風景のなかに、飛行機の残骸と、両腕をだらしなく広げて斜めに立つ人物が描かれている。戦後の混沌とした世相のうちにある人間の虚脱状態を象徴的に描いたものか。なお、飛行機の残骸は、戦前の満洲旅行(1935年)以降繰り返し作品に登場するモティーフである。これもまた戦争の空しさの象徴といえる。

【作品】 失楽園 / Paradise Lost 1980年

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題名/title: 《失楽園》/ Paradise Lost
制作年
/date:
1980年
技法・材質
/materials:
アクリル・カンヴァス / acrylic on canvas
寸法/size: 290.0×900.0㎝
所蔵
/collection
山梨県立美術館
Yamanashi Prefectural Museum of Art
  山梨県立美術館の1階ロビーに設置されている巨大な作品。題名のとおり、ミルトンの叙事詩『失楽園』を主題として制作された。愚かしくも力強く生きる人間の本性に信頼を置いていた福沢は、ミルトンの描く人間像に共感していたとおもわれる。悪魔が跳梁跋扈する暗黒の森から、明るく空虚な世界へアダムとイヴが飛び出してゆくさまは、1946年作《世相群像》と重なる。

【作品】祝祭 / Celebration 1963年

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題名/title: 《祝祭》/ Celebration
制作年
/date:
1963年
技法・材質
/materials:
油彩・カンヴァス / oil on canvas
寸法/size: 199.8×399.7cm
所蔵
/collection
群馬県立近代美術館
Museum of Modern Art, Gunma
  第7回日本国際美術展に出品された大作。磔刑のキリストのまわりに集う幾つもの顔は、華やかさというよりも重厚な祈りの場面を思い起こさせる。1953-4年の中南米旅行で出会った、かの地の祭りの喧噪か。それとも同年2月に亡くなった妻への鎮魂の意か。なお、この作品を原画としたステンドグラスが、福沢の出身地群馬県富岡市の、しののめ信用金庫本店に設置されている。

【作品】 国引き / KUNI-BIKI 1943年

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題名/title: 《国引き》/ KUNI-BIKI
制作年
/date:
1943年
技法・材質
/materials:
油彩・カンヴァス / oil on canvas
寸法/size: 不明 / Unknown
所蔵
/collection
所在不明
Unknown
  第4回美術文化協会展の出品作で、出雲に伝わる「国引き神話」の一場面を描いたもの。隠岐や新羅(朝鮮半島にあった古代の国)を引っ張って縫い合わせ出雲国が出来るという神話で、制作の途中で本作品を見た加太こうじが「先生、こりゃあ侵略戦争の諷刺じゃあないですか」と尋ねると、福沢は笑って「君、そんなことをいうと、私はまた引っぱられる」と言い、「日本的な絵なら描いていいというから、これを描いたんだ。どうです日本的でしょう」とうそぶいたという。
なお、この絵のモデルを山下菊二が務めたことが、本作品のためのスケッチ(山下旧蔵)からわかっている。