【展覧会】「PROJECT dnF」第12回 中村花絵個展「May I have a large container of coffee?」11/9-25

福沢一郎記念美術財団では、1996年から毎年、福沢一郎とゆかりの深い多摩美術大学油画専攻卒業生と女子美術大学大学院洋画・版画専攻修了生の成績優秀者に、「福沢一郎賞」をお贈りしています。
この賞が20回めを迎えた2015年、当館では新たな試みとして、「PROJECT dnF ー「福沢一郎賞」受賞作家展ー」をはじめました。
これは、「福沢一郎賞」の歴代受賞者の方々に、記念館のギャラリーを個展会場としてご提供し、情報発信拠点のひとつとして当館を活用いただくことで、活動を応援するものです。

福沢一郎は昭和初期から前衛絵画の旗手として活躍し、さまざまな表現や手法に挑戦して、新たな絵画の可能性を追求してきました。またつねに諧謔の精神をもって時代、社会、そして人間をみつめ、その鋭い視線は初期から晩年にいたるまで一貫して作品のなかにあらわれています。
こうした「新たな絵画表現の追究」「時代・社会・人間への視線」は、現代の美術においても大きな課題といえます。こうした課題に真摯に取り組む作家たちに受け継がれてゆく福沢一郎の精神を、DNA(遺伝子)になぞらえて、当館の新たな試みを「PROJECT dnF」と名付けました。

今回は、中村花絵(女子美術大学大学院版画研究領域修了、2015年受賞)の展覧会を開催いたします。

なお、アトリエ奥の部屋にて、福沢一郎の作品・資料もご覧いただけます。


中村花絵
May I have a large container of coffee?


《Meme 01》 2023年
 
 

シルクスクリーンを中心に、さまざまな版画技法を駆使して街の風景や歴史、さらには複製され伝播する視覚そのものに切り込む制作をおこなう中村花絵の制作を、新作を中心にご紹介します。

◯中村 花絵(なかむら・はなえ)
1990年北海道網走郡生まれ。2013年、女子美術大学芸術学部絵画学科洋画専攻版画コース卒業〈加藤成之記念賞,美術館賞〉。2015年、女子美術大学大学院美術研究科修士課程美術専攻版画研究領域修了〈福沢一郎賞,美術館賞,美術館収蔵作品賞〉。

主な発表歴
2015 個展(Oギャラリー/銀座)
2016 女子美の新星(女子美術大学美術館)
2016 FINE ART/UNIVERSITY SELECTION 2016-2017(茨城県つくば美術館)
2017 cross references: 協働のためのケーススタディ(アートラボはしもと)
2018 現在への起点 —女子美収蔵作品を中心に—(女子美術大学美術館)
2018 Who are you? 松浦進 × 中村花絵 Contemporary Print Exhibition(網走市立美術館)
2022 帯広美術館開館30周年記念 道東アートファイル2022+道東新世代(北海道立帯広美術館)
2022 めくられるページ、横切るハト。(小金井アートスポット シャトー2F/武蔵小金井)
2023 第12回高知国際版画トリエンナーレ展(いの町紙の博物館/高知)

パブリックコレクション:
町田市立国際版画美術館, 沼津市庄司美術館, 女子美術大学美術館, 士別市立博物館

◯作家のことば◯
「大きい容器でコーヒーをいただけますか?」と訳せるタイトルのフレーズは英語圏での円周率の記憶法らしい。それぞれのスペルの数をカウントしてみると、少数第七位までを示すことができる。実のところ、コーヒーは所望していない。円周率を覚えるためにどれくらい汎用されているかは想像しえないけれども、「May I have a large container of coffee ?」というフレーズとスペルのリズム形態を模倣して別の着地点を見つけ伝播した事実はおもしろい。
姿かたちは同じでも公の意味から離れて滑稽あるいは斬新な態度を示した途端、その対象への認識が根本的に変化するケースはザラにある。コーヒーが円周率に飛躍したように、既知の事柄を模倣し伝達される過程で進化や変異を起こして築かれた文化もきっと多く存在しているはず。現にネットスラングにはそうした事例が多く登場し、小さなコミュニティの中で繁栄と衰退を繰り返している。
模倣されたものの拡散を助けたのは複製技術にほかならない。ヴァルター・ベンヤミンは「複製技術時代の芸術作品」(1936年)の中で当時のファシズムの潮流に背き、大衆文化の発展を促進する手段として芸術作品の複製技術を肯定した。多様性という言葉がポジティブに拡散した現代、私たちはSNSなどのメディアを通してさまざまな意見を交わし議論できる環境に在る。しかしながら、卑劣なユーモアや過剰な反応も目立ち、その全てには首肯しかねる。映画「バービー」と「オッペンハイマー」がアメリカで同日に公開されることを理由に、SNS上で原爆を軽視しているとみられる「#BARBENHEIMER」の件は記憶に新しい。模倣・複製・拡散のオペレーションが唾棄すべき発想を世の中に定着させてしまった。
改めてベンヤミンの思弁を想う。複製される(あるいはされた)ものを扱いながら考えてみる。

 

 

会期:2023年11月9日(木)- 25日(土)
※木・金・土曜日開館 
13:00 – 17:00 観覧無料