【展覧会】「旅する福沢一郎 vol.1 写真と素描でたどる『アマゾンからメキシコへ』」会場風景

2022年春の展覧会 「旅する福沢一郎 vol.1 写真と素描でたどる『アマゾンからメキシコへ』」 の会場風景をご紹介します。

福沢一郎は若い頃から国内外の旅を楽しみ、そこで得たテーマやモティーフを制作に取り入れていました。今回の展覧会は、彼の旅と制作の関わりをさまざまな切り口でご紹介する「旅する福沢一郎」シリーズの第1回で、主に写真と素描から、1953-54年の中南米旅行に迫る試みです。展示された写真パネルの多くは、遺族のもとで大切に保管されていた紙焼写真がもとになっており、令和2年度に公益財団法人ポーラ美術振興財団から助成を受けた「長谷川三郎と福沢一郎の写真資料に関する調査研究」の際にデジタル化した画像データを使用して、見やすい大きさにプリントしました。

展覧会のはじまり、アトリエ東側の壁には、福沢の1952年から54年、まる2年にわたるたびの行程を示すパネルを掲示しました。彼はまず1952年5月、パリで行われる国際文化祭の日本代表のひとりとしてフランスに渡り、そのまま翌1953年1月まで滞在したあと、ブラジルへと向かいます。

福沢一郎の旅 1952-54年 パネル画像

1953年2月のブラジル(サンパウロ)着から翌1954年5月のメキシコ出発まで、およそ1年3か月にわたって、彼は中南米を旅しました。この展覧会では、その旅程から5つのトピックごとにコーナーを分け、写真やスケッチなどを展示しました。


《コパカバーナ》1953年

はじめのコーナー「1.ブラジル」では、福沢が現地で制作し、ご縁のあったブラジル在住の人に贈ったとされる作品2点が展示されています。上の作品もそのひとつで、所蔵者から福沢の故郷富岡市に寄贈されました。現存するこの時期の作例は少なく、たいへん貴重な作品です。

ブラジル滞在のはじめから、福沢は写真撮影を楽しんでいたようで、サンパウロやリオデジャネイロなどの風景を撮影した写真が多数残っています。戦後急速に開発が進むブラジルの大都会を、彼は大胆に、そしてときにユーモアも交えてカメラに収めています。


アトリエ横の小部屋は、「2.アマゾン」です。ここには1953年11月から翌1954年1月までのアマゾン川流域の旅の間に撮影された写真と、訪れた街の風景のスケッチなどを展示しました。

アマゾン川流域の自然と人々の生活、そしてそれらが織りなす風景は、福沢の興味をおおいにかきたてたようで、著書『アマゾンからメキシコへ』にそのことをよく示す記述がみられます。ただ、そのわりにはこの地を主題とした作品や写真(プリント)が少ないのです。今後、まだ整理が終わっていないスライドフィルムの調査とデジタル化がおこなわれれば、彼にとってのアマゾンがどのようなものであったのかを、垣間見ることができるでしょう。


小部屋から出て時計回りにアトリエを巡ると、舞台はメキシコの旅へと移ってゆきます。1954年2月にメキシコシティに到着した福沢は、同年5月はじめまでこの首都を拠点とし、メキシコ各地の街や遺跡へと取材にでかけます。「3.メキシコの遺跡と美術」では、彼が訪れた遺跡や、同時代の美術家による作品などを撮影した写真をご紹介しました。

今回は、あえてメキシコの遺跡・旧跡と、ディエゴ・リヴェラやホセ・オロスコ・クレメンテらによる壁画やモザイクを撮影した写真を隣どうしに配置してみました。日本や西欧とはひとあじ違う、建物と一体となった造形のありように、福沢が強い興味を示していたことがよくわかります。この地での体験は、彼にとって、建築と美術の結びつきについて深く考えをめぐらせる機会となったようです。

また、福沢がメキシコで撮影した写真の多くに、働く女性や子供たちのすがたが写っているのも興味深いことです。「4.メキシコ 市井の人々」では、そんな写真とともに、水彩やドローイングなどを展示しました。


《メキシコの母子(Ⅱ)》1954年
「タスコの女」1954年

この時期の福沢作品には「母子」と題したものがいくつかみられますが、実は、他の時期にこのテーマを扱った作例はほとんどないのです。この地で目にした「母子」のすがたが彼にとっていかに印象深いものであったかがしのばれます。


展覧会の最後には、ちいさなコーナーをふたつ設けました。「5.福沢一郎サボテン・コレクション」では、福沢のメキシコ滞在時の写真の中から、サボテンを写したものを集めてみました。うち1点には福沢自身も写っています。乾いた大地ににょきにょきと生えて独特の景観をかたちづくるサボテン。人々の生活ともたいへん近しいこの奇妙な植物に、彼はことのほか強い興味をもったようです。
次の「6.中南米の旅、その後」では、中南米の旅が画家福沢一郎にもたらしたもの、そして調査研究の道なかばで写真資料からみえてきたことなどをご紹介しました。彼の著書『アマゾンからメキシコへ』は写真を豊富に収録した興味深い旅行記ですが、じつは彼自身の制作についてはほとんど書かれておらず、彼がいったい何を見て、何に心を動かされたか、そしてそれらがその後の絵画制作にどう影響したかということは、さらに多くの資料から検討される必要があります。今回デジタル化された写真の画像をくわしく分析することで、わたしたちは彼の中南米旅行の意味をもう少し深く掘り下げることができるかもしれません。


福沢一郎旧蔵のマスク メキシコで購入か

今後も、機会を捉えて福沢一郎の「旅」を追う企画をおこないたいと考えています。どうぞお楽しみに。
今回の展覧会のパンフレットは、こちらから ごらんいただけます。

【展覧会】旅する福沢一郎 vol.1 写真と素描でたどる『アマゾンからメキシコへ』 5/12 – 6/4


このたび、福沢一郎記念館(世田谷)では、展覧会「旅する福沢一郎 vol.1 写真と素描でたどる『アマゾンからメキシコへ』」を開催いたします。

 福沢一郎は旅する画家でした。若い頃から国内外のさまざまな土地へでかけ、地元の人々の生活や祭礼、史跡なども興味深く観察し、制作の糧にしていました。とはいっても、旅先の風景や人物などをそのまま描くのではなく、それぞれの土地で得たさまざまな印象と、貪欲に吸収した知識、それらをもとに積み重ねた思考によって、もっと大きなテーマ、たとえば人間のいのちの力強さや社会のダイナミズムなどへと昇華させていきました。

 特に1953-54年の中南米の旅は、彼の制作に強い影響を与え、大きな転換点となったのです。このとき助けとなったのが写真でした。これらの中には、ただ現地のようすを記録するだけでなく、写真としての表現にも挑んでいるようなものが多くあり、画家の興味を知るうえでとても貴重なものです。

 帰国後、これらの写真をふんだんに盛り込んだ紀行文集『アマゾンからメキシコへ』(読売新聞社、1954年)が刊行され、大きな話題となりました。

 今回の展示は『アマゾンからメキシコへ』の記述と、写真やスケッチなどの小品をもとに、彼の中南米の旅のようすに迫る試みです。この機会にぜひご覧ください。

◎この展覧会は、令和2年度 公益財団法人ポーラ美術振興財団助成 「長谷川三郎と福沢一郎の写真に関する調査研究」の成果の一部を 使用し構成しています。

《アマゾン》1954年頃 水彩・紙
物売りの老婆 メリダ(メキシコ) 1954年
《メキシコの母子(Ⅰ)》1954年 インク、水彩・紙

会 期:2022年5月12日(木)―6月4日(土)の
    木・金・土曜日 13:00 -17:00(入館は16:30まで)
観覧料:300円


※ 新型コロナウィルス感染拡大防止のため、ご来館時にはマスクをご着用ください。みなさまのご協力をお願いいたします。


【展覧会】「福沢一郎の“写真” 画家のレンズが捉えたもの。」 会場風景

展覧会 「福沢一郎の“写真” 画家のレンズが捉えたもの。」 の会場風景をご紹介します。

 

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今回の展示は、主にアルバムからの複写パネルや、ネガからプリントし直した写真で構成されています。特に1924〜31年のパリ滞在中に福沢が撮影した写真については、ネガが現存せず、プリントも非常に小さいので、画像を楽しんでいただくために、デジタル複写によるパネルを並べてみました。パネル作成にあたっては、多摩美術大学美術館の皆様に多大なるご協力を賜りました。

その他、全紙大の額にて展示しているプリントは、富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館からお借りしたものです。同館が1996-98年の展示のために福沢家所蔵のネガフィルムからプリントし直したもので、その中から1958年のヨーロッパ〜インド旅行や、1965年のニューヨーク滞在の際に撮影されたものなどを、今回ご紹介することにしました。

下の画像の右端にある写真は、1939年12月頃に福沢が中国の山西省に旅行した際撮影した写真で、貴重なオリジナルプリントです。この写真については阿部芳文(展也)が雑誌『フォトタイムス』(1940年5月号)で「福沢一郎氏のアルバムから」という記事を書いて紹介しており、「卓抜な構成を示すもの」と高く評価しています。解説パネルとあわせてご覧ください。

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福沢が1965年のニューヨーク滞在時に撮影した写真は、非常に魅力的なものが多く、会場の都合で展示点数を4点に絞らなければならなかったのが残念です。この頃の写真はネガが比較的良い状態で残っているので、いずれ何らかのかたちで世に問うことができればいいなと、ひそかに思っております。

 

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今回は写真のほか、福沢一郎愛用のカメラも、出来るだけ多く展示してみました。ライカシリーズのほか、コンタックスIIIやニコンFなどでも撮影を楽しんだようです。

また、1924〜31年のオリジナルプリントも、幾つかアルバムごとケースに入れて展示していますので、こちらもぜひお見逃しなく。

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福沢一郎記念館は、展覧会会期中の月、水、金の開館となります。
皆様のお越しをお待ちしております。
展覧会詳細は、→こちらから。

【展覧会】「福沢一郎の“写真” 画家のレンズが捉えたもの。」 4/30 – 6/2, 2014

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このたび、福沢一郎記念館では、春の展覧会として「福沢一郎の“写真” 画家のレンズが捉えたもの。」を開催いたします。

福沢一郎は、1924(大正13)年の初渡欧の頃から、写真撮影を趣味にしていました。その後も戦争中の中国、戦後のブラジル、フランス、インド、そしてアメリカなど海外へ赴くとき、彼はカメラを常に持ち歩き、気になった風景や事物、ひとびとの姿などに向けてシャッターを切りました。彼の写真からは、巧みなフレーミングやクローズアップの効果により、ときに絵画作品にはみられない叙情的な感覚が盛り込まれ、鮮烈な印象を受けるものが多くあります。
今回はそうした福沢一郎の「写真」そのものに迫る展覧会です。1924〜31年の滞欧期に撮影された写真の複製パネルや、90年代にプリントし直した50〜60年代の写真とともに、滞欧当時のアルバム、福沢愛用のカメラ、レンズなどを展示します。彼がどのように写真に取り組んでいたかを知っていただく格好の機会といえましょう。
絵画とはまた違った、ファインダー越しの福沢一郎の視線を感じていただけるこの展覧会、福沢絵画が好きな方にも、写真やカメラが好きな方にも、楽しんでいただけるものと思います。この機会に、ぜひご覧ください。

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ニューヨークにて撮影 1965年

会 期:2014年4月30日(水)〜6月2日(月)11:00-17:00 月・水・金開館
※ 5月5日(月)は祝日ですが開館します。
入館料:300円

※講演会開催のお知らせ
「近代写真の成立と福沢一郎の写真」
講師:金子隆一氏(写真史家)
日時:5月14日(水) 14:00〜15:30
場所:福沢一郎記念館
会費:1,500円
※要予約(電話またはFAXにて/先着40名様)

<お問い合わせ:お申し込みはこちらまで>
TEL. 03-3415-3405 / FAX. 03-3416-1166