【イベント情報】講演会「『形』と色彩の競演 − 福沢絵画の造形性」報告

展覧会 「福沢一郎 face 展」 の関連イベントとして、講演会「『形』と色彩の競演 − 福沢絵画の造形性」が、10月31日(水)に開催されました。

講師は山形大学地域教育文化学部准教授の小林俊介さん。日本近代美術史の研究者であり、また画家でもあります。技法の観点から日本近代の絵画に迫る意欲的な研究を続けておられます。
今回は、そうした研究手法から福沢絵画の「造形性」に迫る刺激的なものでした。特にルーベンスの作品における色相対比による明暗の描出が、福沢の作品にも活かされているという指摘などは、作家としての体質の類似をしばしば指摘されるルーベンスの作品に、福沢がよく学んでいたことを示唆するものでした。
戦前の日本画壇デビューの頃から最晩年までの主要な福沢作品を、小林さんはこの講演会のために直に調査されたとのことで、非常に細かく福沢の筆の動き、意図的な塗り残し、色の使い方などを分析された講演は、我々聴講者にとって、福沢一郎絵画の理解に新たな目をひらくものでした。講演会の内容は来春の『記念館ニュース』に掲載予定です。

(2012年11月19日)

【展覧会】福沢一郎 face 展 会場風景

展覧会「福沢一郎 face 展」オープンから一か月が経過しました。
本日は、その会場風景をご紹介します。

   *   *   *   *   *

今回は文字どおり「顔」がテーマということで、福沢一郎の人間像における「顔」のいろいろをストレートに楽しんでいただきたいと思っております。解説もコラム程度しか付いておりません。
お時間の許すかぎり、ゆっくり作品のなかの「顔」と向き合っていただければと思います。

福沢一郎記念館は、展覧会会期中の月、水、金の開館となります。11月23日(金・祝)も開館いたします。
皆様のお越しをお待ちしております。

展覧会詳細は、→こちらから。

【展覧会】 福沢一郎 face 展 10/17-12/3, 2012

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《スペイン・ラプソディー》1955年
多摩美術大学美術館蔵


《煽動者》1931年 福沢一郎記念館蔵

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《顔(2)》1982年
富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館蔵



このたび、福沢一郎記念館では、秋の展覧会として「福沢一郎 face」展を開催いたします。

画業のなかで一貫して骨太な力強い人間像を描いた福沢一郎ですが、それら人間像の「顔」について語られることは、これまでほとんどありませんでした。今回は、人間を描くにあたってとりわけ重要な意味をもつ顔というモチーフに、福沢がどのように取り組んだのかを、さまざまな年代の作品により探ってみたいと思います。

多くの画家と同様、福沢一郎の描く顔にもいくつかの特徴があります。まず鼻が強い輪郭線や色彩で強調され、そのまわりにやや控えめに目と口が配置され、中央付近に意識が集中した描き方となっています。こうした特徴は、初期の作品を除き年代に関係なくあらわれるので、顔を描くときの彼の意識が生涯を通じて大きく変わらなかったことを示しています。それは彼の考える普遍的な「人間像」がぶれることなく保たれたことのあらわれでもあり、人間への興味や批判精神を持ち続けた彼の視線を我々に印象づけるものです。
また彼の中でさまざまな変化をみせた主題や造形への興味が、そうした顔の特徴を含みつつ、どのように人間の表現へとつながっていったのかは、彼の画業を検証するうえでたいへん重要なことと考えられます。

今回は最初期の作品《ブルターニュの女》(1927年)から最晩年の《ラファエル》(1991年)まで、油彩、アクリル、そして素描も含めた多彩な16点の作品を展示します。福沢一郎の「顔」に秘められた人間への思いを、会場で感じ取っていただければ幸いです。
この機会に、ぜひお出かけください。

主な出品作:
《ブルターニュの女》1927年 油彩
《煽動者》1931年 油彩
《スペイン・ラプソディー》1955年 油彩 多摩美術大学美術館蔵
《顔(2)》1982年 アクリル 富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館蔵
《ラファエル》1991年 アクリル
《内村鑑三》《新島襄》などの挿絵・素描6点

会 期:2012年10月17日(水)〜12月3日(月)11:00-17:00 月・水・金開館
※ 11月23日(金)は祝日ですが開館します。
入館料:300円


※講演会開催のお知らせ

「『形』と色彩の競演 − 福沢絵画の造形性」
講師:小林俊介氏(山形大学 地域教育文化学部 准教授)
日時:10月31日(水) 14:00〜15:30
場所:福沢一郎記念館
会費:1,500円
※要予約/先着40名様(FAXも可)

<お問い合わせ:お申し込みはこちらまで>
TEL. 03-3415-3405 / FAX. 03-3416-1166

【イベント情報】講演会「福沢一郎、最近の話題」報告

展覧会 「福沢一郎の『ニッポン』」 の関連イベントとして、講演会「福沢一郎、最近の話題」が、5月9日(水)に開催されました。

講師は群馬県立館林美術館館長の染谷滋さん。日本近代美術がご専門で、高崎の群馬県立近代美術館在職中には「生誕90年 福沢一郎展」「湯浅一郎展」「中村節也展」など群馬県ゆかりの画家の展覧会を担当されています。
今回は、2009年に群馬県立近代美術館で開催された「福沢一郎大パノラマ展」の企画裏話、現在同館にて公開中の大作《地痕》《かちどき》について、そして画家吉井忠の日記(『池袋モンパルナス』展(板橋区立美術館)図録所収)にみる福沢一郎のすがたなどについて、わかりやすくお話いただきました。

(2012年5月11日)

【展覧会】「福沢一郎の『ニッポン』」会場風景

展覧会「福沢一郎の『ニッポン』」オープンから、もうすぐ二週間が経とうとしております。
本日は、その会場風景を少しだけご紹介します。


大作《世相群像》(1946年)。裸体の人間がうごめく不思議な絵です。細かく見ていくといろいろな発見があります。


その隣のスペースには小品《鯨港》(左、1950年)と《花》(右、1951年)。《花》のシバレた窓ガラスを表現した(と思うのですが…)デカルコマニーの水色がとても綺麗です。


そして今回の目玉!修復後初公開となる《海》(左、1942年頃)と《題不明》(右、1931年)です。どちらも富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館に寄贈された作品ですが、そちらに先行して、当館にて公開させていただけることになりました。どちらも貴重な作例。感謝です。詳しい解説はぜひ会場のパネルにて…。


ユーモアたっぷりの《餓鬼・子をおのれの背にのせて》(左、1972年)と《野党攻勢。指弾の指先おかし》(右、1974年)。特に前者は、後ろのほうでもぞもぞ動いている餓鬼が可愛いです。何をしているんでしょう…?

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このほかにも、奥の展示室では「卑弥呼」や「古事記」を主題とした作品や、福沢の直筆原稿、コレクションしていた十字架や愛用のテーブルなどの遺品を見ることができます。そちらもお見逃しなく。
また福沢の蔵書が並べられた資料室もご覧いただけます。画家のアトリエの雰囲気を感じながら、ゆっくりとお過ごしいただければと思います。

もうすぐゴールデンウィークですね。
福沢一郎記念館は、連休中も通常どおり月、水、金の開館となります。
皆様のお越しをお待ちしております。

展覧会詳細は、→こちらから。

(2012年4月23日撮影)

【展覧会】福沢一郎の「ニッポン」4/13-6/1, 2012


《題不詳(人ならば浮き名や立たむさ夜ふけて我た枕に通ふ梅ヶ香)》
1931年 富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館蔵


《世相群像》1946年 富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館蔵



このたび、福沢一郎記念館では、春の展覧会として「福沢一郎の『ニッポン』」を開催いたします。

日本に生まれ、生活する画家が「ニッポン」を描くとき、それはどのようなすがたを伴って現れてくるのでしょう。
ある画家はこの国にしかない風景や人物像を求めるでしょうし、またある画家は受け継がれてきた伝統のなかに美しさを見出し画面に取り入れるでしょう。そして、それらの作品は、ときに故郷としての「ニッポン」を高らかに謳いあげ、ときに注意深く人間をみつめ、またときに社会のありようを激しく批判するものとなるでしょう。事ほど然様に、「ニッポン」をめぐる画家達の制作姿勢と、作品のありようは様々です。
今回の展示は、福沢一郎がどのように「ニッポン」を描いてきたかを、作品をとおして探る試みです。
当然のことながら、彼が「ニッポン」に向けたまなざしは、時代によって、また自らが置かれた立場によって、微妙に変化してゆきます。しかし、通底しているのは人間と社会に対する批判精神であり、また新たな「人間」のすがたを探ろうという強い欲求でした。
「ニッポン」が発展と混沌の渦中にあるとき、彼はその世相を、スナップショットのような視点で切り取ったり、地獄の世界になぞらえたりして、ユーモアたっぷりに批判しました。また「ニッポン」が危機の時代にあるとき、彼は社会の混乱を裸体群像によって象徴的に描き、人間性の恢復を切望しました。さらに晩年になると、古代日本の神話や歴史物語が主題に加わり、ダイナミックな人間達が画面を支配しました。
新鮮な驚きに満ちたワンダーランドであり、皮肉たっぷりに批判するに値する社会であり、さらには人間性を深くみつめるためのひとつの視座であった、福沢一郎の「ニッポン」。今回は新発見の作品2点を含めた10点を展示し、その姿をさぐってみたいと思います。この機会に、ぜひお出かけください。

会 期:2012年4月13日(金)〜6月1日(金)11:00-17:00 月・水・金開館
※ 5月4日(金)は祝日ですが開館します。
入館料:300円


※講演会開催のお知らせ

「福沢一郎、最近の話題」
※終了しました。講演会のようすは、“>こちらから
講師:染谷滋氏(群馬県立館林美術館 館長)
日時:5月9日(水) 14:00〜15:30
場所:福沢一郎記念館
会費:1,500円
※要予約/先着40名様(FAXも可)
※追記:講演会の「会費」が、誤って「1,000円」と記載されておりました。お詫びして訂正いたします。(4/24)

<お問い合わせ:お申し込みはこちらまで>
TEL. 03-3415-3405 / FAX. 03-3416-1166

【作品】 水瓜を持つ男 / Man with a Watermelon 1955年

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題名/title: 《水瓜を持つ男》/ Man with a Watermelon
制作年
/date:
1955年
技法・材質
/materials:
油彩・カンヴァス / oil on canvas
寸法/size: 130.3.0×97.0cm
所蔵
/collection
群馬県立近代美術館
Museum of Modern Art, Gunma
  1955年、つまり福沢が中南米旅行から帰国した翌年の作品である。この頃制作された「中南米シリーズ」には、パブロ・ピカソの影響がしばしば指摘される。1951年に開催されたピカソの大規模な個展は、1920年代のパリで発見したピカソ作品のちからを再認識させる契機となったのかもしれない。そして、中南米旅行で得た原初的な生命感を放つ人々のイメージと重なり、戦中から戦後にかけて失われていた、彼本来の力強い絵画を取り戻すことに成功したのではないだろうか。
翌年の《狩猟》ほど画面構成は洗練されておらず、旅行以前の作画から大きく変貌を遂げる道半ばという印象を受ける。画面との格闘のなかで、ピカソの再発見が、彼にとって大きな意味を持っていたと想像される。

【作品】卑弥呼宮室に入る / Himiko enters the Palace 1980年

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題名/title: 《卑弥呼宮室に入る》/ Himiko enters the Palace
制作年
/date:
1980年
技法・材質
/materials:
アクリル・カンヴァス / acrylic on canvas
寸法/size: 227.3×363.6cm
所蔵
/collection
世田谷美術館
The Setagaya Art Museum
  1980(昭和55)年頃から、福沢は古代日本の物語を画題とした作品を制作する。特に中国の歴史書『魏志倭人伝』に記された邪馬台国と、その国を統治したといわれる女王卑弥呼に強い興味を覚え、それに関するさまざまな書物を読みあさってイメージの源泉を得た。その成果は翌年3月の個展「福沢一郎 魏志倭人伝展」で発表される。
本作《卑弥呼宮室に入る》はその出品作中特に大きな5点のうちの一つで、強烈な赤が支配する群衆の中を、輿に乗ってあらわれる卑弥呼を描いている。画家曰く「ブラックホールに興味を寄せるのと同じ」ように、古代日本の世界に引き込まれ、その原初的な荒々しい生命を描き出した。