【展覧会】「PROJECT dnF」第10回 清水香帆個展、第11回 児玉麻緒個展

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福沢一郎記念美術財団では、1996年から毎年、福沢一郎とゆかりの深い多摩美術大学油画専攻卒業生と女子美術大学大学院洋画・版画専攻修了生の成績優秀者に、「福沢一郎賞」をお贈りしています。
この賞が20回めを迎えた2015年、当館では新たな試みとして、「PROJECT dnF ー「福沢一郎賞」受賞作家展ー」をはじめました。
これは、「福沢一郎賞」の歴代受賞者の方々に、記念館のギャラリーを個展会場としてご提供し、情報発信拠点のひとつとして当館を活用いただくことで、活動を応援するものです。

福沢一郎は昭和初期から前衛絵画の旗手として活躍し、さまざまな表現や手法に挑戦して、新たな絵画の可能性を追求してきました。またつねに諧謔の精神をもって時代、社会、そして人間をみつめ、その鋭い視線は初期から晩年にいたるまで一貫して作品のなかにあらわれています。
こうした「新たな絵画表現の追究」「時代・社会・人間への視線」は、現代の美術においても大きな課題といえます。こうした課題に真摯に取り組む作家たちに受け継がれてゆく福沢一郎の精神を、DNA(遺伝子)になぞらえて、当館の新たな試みを「PROJECT dnF」と名付けました。

今回は、清水香帆(女子美術大学大学院洋画専攻修了、2012年受賞)と、児玉麻緒(多摩美術大学油画専攻卒業、2008年受賞)のふたりが展覧会をおこないます。
ふたりは福沢一郎のアトリエで、どのような世界をつくりあげるのでしょうか。

なお、アトリエ奥の部屋にて、福沢一郎の作品・資料もご覧いただけます。


第10回
清水香帆「漂う光」

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《閃光》 2022年 油彩・キャンバス 91.0×72.7cm

架空の世界、異次元の景色。さまざまな想像をかきたてる清水の絵画は、抽象的な形態と鮮やかな色彩、そして大胆な筆のストロークによって形作られます。今回は「光」をテーマとして、近作を中心に展示します。

◯清水 香帆(しみず・かほ)
東京生まれ。2010年、女子美術大学芸術学部洋画専攻卒業、卒業制作賞。2012年、女子美術大学大学院美術研究科博士前期課程美術専攻洋画研究領域修了(福沢一郎賞)。2013年、「第1回損保ジャパン美術賞 FACE2013」入選。同年「トーキョーワンダーウォール公募2013」入選。2015年、「群馬青年ビエンナーレ2015」入選。2016年、「シェル美術賞展2016」入選。

近年の主な個展:
2018年 「果ての波」(KOMAGOME1-14cas、東京)/新世代への視点「清水 香帆展」(ギャラリーQ、東京)
2019年 「在るかたち」/「境を掬う」Creativity continues 2019-2020(いずれもRise Gallery、東京)
2020年 「辿る先」 Creativity continues 2019-2020(Rise Gallery、東京)
2022年 「柔らかい波」 Creativity still continues (Rise Gallery、東京)

近年の主なグループ展:
2016年 「三つの絵」(HIGURE 17-15 cas contemporary art studio、東京)
2017年 「Special Edition 2017」(Rise Gallery、東京)
2020年 「松本藍子+清水香帆」Creativity continues 2019-2020/「松本藍子+清水香帆+江原梨沙子+井上瑞貴+吉田秀行」Creativity continues 2019-2020(いずれもRise Gallery、東京)/「Collaboration Project Vol.3 MASATAKA CONTEMPORARY+RISE GALLERY」(Masataka Contemporary、東京)

◯作家のことば◯
夜道で見える灯のように、見上げた天井のシャンデリアのように、光は時に奥行きや距離を飛び越えてどきりとするほど目の前に迫ってきます。光、色、そして形。日々の生活の中で、あるいは広がる風景の中でふと眼前に現れるそれらは、私にとって謎に満ちていて魅力的なものです。中空に浮遊しながら果てを示す。彼方と此方を行き交い交わる。そんな揺れ動く感覚を含んだ絵を探っています。

会期:2022年10月27日(木)- 11月12日(土)
※木・金・土曜日開館 
13:00 – 17:00 観覧無料


第11回
児玉麻緒「Light falls」

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《light falls》 2022年 油彩・紙 77.5 × 53.3cm

植物や庭を制作のモティーフとして力強いタブローを制作する児玉は、2014年、クロード・モネが愛したジヴェルニーの庭を訪れ、その後の制作に大きな影響をうけたといいます。今回、児玉は福沢一郎が愛した自宅の庭に強く感じ入り、その場の空気感や季節の変化、植物のうつろいを自身に取り込んで制作をおこないました。「庭」を媒介として、画家どうしの時空を超えた対話が立ちあらわれます。

◯児玉 麻緒(こだま・あさお)
東京生まれ。2008年、多摩美術大学油画専攻卒業、福沢一郎賞。2010年、多摩美術大学大学院博士前期課程絵画専攻油画研究領域修了。2012年、「14th Flag Art 2010」最優秀、日比野克彦賞。同年ホルベイン・スカラシップ奨学生。2013年、Mercedes-Benz Fashion Week in Stockholm A/W 13において、フィンランドのマリメッコ社から自作をモチーフとしたテキスタイルが出展され、プロダクトとしても発売される。2015年、「第3回損保ジャパン美術賞 FACE2015」審査員特別賞。2019年、パリに滞在し制作(Cité internationale des arts)。再訪したジヴェルニーの庭で得た成果をもとに展示をおこなう。

近年の主な個展:
2016年 「project N 65 児玉麻緒」(東京オペラシティアートギャラリー)
2017年 「PLANT」(ANA インターコンチネンタルホテル東京アートギャラリー)

近年の主なグループ展:
2018年 「モネ それからの100年」(横浜美術館、神奈川/名古屋市美術館)
2020年 「Phase 2」(麻生邸、東京)/「Exploring」(銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM)
2021年 「FUJI TEXTILE WEEK 2021 織りと気配」(富士吉田市)
2022年 「石と花 石黒昭×児玉麻緒」(N&Aアートサイト、東京)

◯作家のことば◯
絵の具が絵の具でなくなる瞬間、私は絵画の光をみる。 雨の中、曇りの中、快晴の中、石はそこに佇み草花は生え重なり、時々の表情の移り変わりに庭という存在の光をみた。庭の光が、カンヴァスで巻き起こる歓びと葛藤と模索の先に見える光と重なる。 花に石に庭のように変化し在り続ける、生きる絵画で在りたい。

会期:2022年11月24日(木)- 12月10日(土)
※木・金・土曜日開館 
13:00 – 17:00 観覧無料


【展覧会】「PROJECT dnF」  第7回 中里葵「Repetition」、第8回 渡部未乃「Botanical garden」

福沢一郎記念美術財団では、1996年から毎年、福沢一郎とゆかりの深い多摩美術大学油画専攻卒業生と女子美術大学大学院洋画・版画専攻修了生の成績優秀者に、「福沢一郎賞」をお贈りしています。
この賞が20回めを迎えた2015年、当館では新たな試みとして、「PROJECT dnF ー「福沢一郎賞」受賞作家展ー」をはじめました。
これは、「福沢一郎賞」の歴代受賞者の方々に、記念館のギャラリーを個展会場としてご提供し、情報発信拠点のひとつとして当館を活用いただくことで、活動を応援するものです。

福沢一郎は昭和初期から前衛絵画の旗手として活躍し、さまざまな表現や手法に挑戦して、新たな絵画の可能性を追求してきました。またつねに諧謔の精神をもって時代、社会、そして人間をみつめ、その鋭い視線は初期から晩年にいたるまで一貫して作品のなかにあらわれています。
こうした「新たな絵画表現の追究」「時代・社会・人間への視線」は、現代の美術においても大きな課題といえます。こうした課題に真摯に取り組む作家たちに受け継がれてゆく福沢一郎の精神を、DNA(遺伝子)になぞらえて、当館の新たな試みを「PROJECT dnF」と名付けました。

今回は、中里葵(女子美術大学大学院版画専攻修了、2018年受賞)と、渡部未乃(多摩美術大学油画専攻卒業、2014年受賞)のふたりが展覧会をおこないます。
ふたりは福沢一郎のアトリエで、どのような世界をつくりあげるのでしょうか。

なお、アトリエ奥の部屋にて、福沢一郎の作品・資料もご覧いただけます。


第7回
中里 葵「Repetition」


《画一化する風景9》 2016年、91×91cm、水性木版/和紙
 

団地や大型マンションを思わせる建築物を真正面からとらえたイメージをもちいて制作する版画家・中里葵。まるで幾何学的な抽象絵画のようにもみえますが、その中には無個性、並列化、連続性といった都市と人間のありようが込められているようです。今回は近作を含め、これまでの制作を概観します。

 

◯作家のことば◯
私が「版画」という技法で作品を制作する意味は何か、と考えていました。
版画には他の絵画表現にはない様々な特質があります。〈版〉という〈型〉を一度作れば同一のイメージを複数生み出すことができたり、または色彩を変化させたり、層を重ねたり、様々なことができます。
そのような版画の特質から、無限に続いていくような作品や、展示空間に合わせて変形できる作品のような「版画」だからこそ生み出せる作品を模索しています。

2019年10月8日(火)-19日(土) 12:00 – 17:00  観覧無料
月曜休

※10月13日(日)の中里葵「Repetition」トーク&レセプションは、台風19号の影響を考慮し、中止とさせていただきます。
※ 当館は12日(土)に休館とさせていただきます。 15:00 – 17:00


第8回
渡部未乃「Botanical garden」


《Overlap XV》 2019年、194.0×130.5cm、油彩・キャンバス
 

渡部未乃の作品には、風景や植物を連想させるものが多くあります。抽象化されて普遍的な「絵画」へ進む途上、画面は理智と感性のはざまで揺れ動きながら、輝きを獲得していくようです。今回はこの個展のために制作した最新作のほか、植物のイメージから派生した絵画を中心に構成し、作家の新たな可能性をさぐります。

 

◯作家のことば◯
植物の形からドローイングを重ね、要素を削ぎ落とし抽象化した形を描いている。その際に自身の感情やモチーフの意味も取り除いていく。
絵と私の間に繰り返される対話により作品は徐々に自身から離れ、私のものでも誰のものでもなくなっていく。見る人によって様々な見方ができるような、自立した絵画を目指している。

2019年10月29日(火)- 11月9日(土) 12:00 – 17:00  観覧無料
月曜定休
ギャラリートーク、レセプション 11月2日(土) 15:00 – 17:00


【展覧会】PROJECT dnF 第5回 蓬󠄀田真「display」アーティストコメント

蓬󠄀田真 アーティストコメント … 往復メールから

2016年10月〜12月
ききて:伊藤佳之(福沢一郎記念館非常勤嘱託(学芸員))


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蓬󠄀田真(よもぎだ・まこと)
1971年生まれ。1996年、多摩美術大学絵画科油画専攻卒業(福沢一郎賞)、同年 第14回上野の森美術館大賞展入選・賞候補。2000年、個展「蓬󠄀田真展」(横浜トヨペット本社ショールーム ウエインズ21)。2002年、第12回全日本アートサロン絵画大賞展入選。2007年、個展「ものを見て描く~油彩・水彩・染付から~ 蓬󠄀田真展」(横浜・相鉄ギャラリー)。2012年、DESIGN FESTA vol.35に出展(東京ビッグサイト)。ほか個展、グループ展多数。

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1 第1回「福沢一郎賞」受賞作品

—- 今回の記念館での個展、展示してみて、いかがですか。率直な感想をおきかせください。

蓬󠄀田 ひとことで言うと「ありがとうございました」というのが展示させていただいた感想です。まず記念館の皆様には、第1回福沢一郎賞受賞者として個展を開催させていただき、大変感謝しております。そして観に来てくださった皆様にもお礼を言いたいです。
今回記念館での展示が決まったことは作品制作の大きな励みとなりました。またギャラリーではなく、福沢一郎さんのアトリエという空間のおかげで、来てくださった方々にゆったりと鑑賞していただけたようです。記念館は私自身にとっても、展示しやすく、居心地のよい場所でした。

—- こちらとしても、ありがたいことです。今回は第1回福沢一郎賞受賞作品「イエローテーブル」から最近作、そして陶器やカルトナージュなど、いろいろな作品を展示していただきました。この展示の意図というか、ねらいを、おきかせ願えますか。

蓬󠄀田 賑やかで、気軽にみていただける雰囲気を心がけました。展覧会名を「display」としたのは、作品を「展示する」というよりも「陳列する」「並べる」感じにしたかったからです。また静物画で、ものを並べる時には、自分だけのショーウィンドウを作るイメージがあり、displayという言葉が合っていると感じたからでもあります。

—- なるほど。ではまず、福沢一郎賞受賞の《イエローテーブル》(1996年、図1)についてお話うかがいたいと思います。白や黄色のモティーフで占められたテーブル。所々グリーンもありますが…。電話やボウル、洗剤、レモンなど、わりと身近なモティーフが多いですね。しかし、背景には何処の街なのか判然としない地図が、薄暗い中に描かれていて、明るいテーブルの上との強いコントラストを感じます。リアルなのにリアルじゃない室内、といいますか…そんな印象を私などは受けます。じっさい、この作品はどのように描かれたのでしょう?



図1 《イエローテーブル》 1996年 油彩 F100

蓬󠄀田 自宅の自分の部屋で、モチーフを並べて描きました。「暗い部屋に黄色いかたまりがある」イメージで、黄色いものを探し回った記憶があります。自宅に転がっていたものもあれば、街に出て買ってきたものもあります。モチーフを並べる時は楽しく、作品もちょうど1ヶ月で完成しました。背景は黄色いモチーフとのコントラストを強められるよう、暗くしました。地図は柄として見るとすごく面白く、テーブルにかけたレモン柄の布と対比させる意味で後ろに配置しました。

—- 実際に部屋の中に構成されたモティーフを見ながら、「黄色いかたまり」を強調するような画面づくりを心がけられたということなんですね。地図が柄として面白いという感覚、わかるような気がします。でも、これはどこの地図ですか?という質問を受けることもあったのではないでしょうか? 実際、今回展覧会場ではそんな声も聞かれました。

蓬󠄀田 ご覧いただいた方から「ロンドンではないか」と教えていただきました。そう言われるとロンドンだったような気がしますが、正確にはどこの地図かわかりません。川のうねった形と、四角い建築物の対比がおもしろくて選びました。





2 静物画を中心に

—- そもそも、静物を中心に制作をし続けておられるのは、どうしてなんでしょう? 人物とか風景とか幻想の世界とか…そうしたものでなく、静物を。

蓬󠄀田 ものを目の前に置いて、それを見て描くのが好きなんです。植物や果物は時間が経つにつれて枯れたり腐ったりしていきますが、基本的には時間が経っても状態は変わらないのでじっくり制作できます。時間をかけて少しずつ画面を作っていきたいから、静物を描いています。絵を描き終えて、ずっと組みっぱなしだったモチーフをくずす時はすごくうれしいです。

—- あくまで、モノが集まってできるヴィジョン、あるいは図像そのものにご興味がおありなんですね。だから、作品の集積である個展の場合も、「展示」ではなく「陳列」、displayを目指したわけですね。確かに「展示」という場合、作品の並べ方にストーリーや意味、関連性をもたせたりして、何かしらの意図、メッセージを込める場合が多いです。蓬󠄀田さんの場合は、あくまでヴィジュアルにこだわる。意味やメッセージはある意味余計な要素、という感じなのでしょうか。

蓬󠄀田 余計な要素、とまでは言いませんが、私自身は「これいいな」と思ったものを納得いくまで描くだけで十分なんです。ものを描いていくことで画面ができていき、作家の言いたいことは絵の中のものに隠れて見えてこないような。例えば昆虫図鑑の虫の絵は小さい頃からずっと好きですし、植物画にも興味があります。

—- 今回は植物画も何点か展示していただきました(図2)。モティーフとなる植物はどんなふうに選ぶのでしょう?



図2 《リンゴ》 2005年 水彩 74×56cm

蓬󠄀田 その季節に咲いたり、実ったりしているものを選びます。
静物を制作する時には当然自分で描くものをいろいろ準備しなければならないのですが、植物を描く場合は時期が来れば、それだけでよいモチーフになるところがありがたいです。花や実は早く描ききってしまわないと枯れたりしおれたりしてしまうので集中して制作しなければならず、静物画とは違った魅力があると思います。

—- 植物画の制作で得たイメージが、(油彩の)作品のなかに登場したりすることはあるのでしょうか?

蓬󠄀田 絵画作品についてはありませんが、今回、絵と一緒に展示した染付の皿には、魚や水辺の生き物を描いています。かっこいいな、面白いな、と感じた生き物を皿に絵付けし、その上から透明な釉薬をかけて焼きます。完成すると、呉須と呼ばれる顔料で描いた魚などの絵が釉薬でコーティングされるので、実際に料理をのせて使うことができます。皿に料理をのせるのは当たり前のことですが、陶芸を始めた頃「自分が描いた絵が生活の中で使えるんだ」と考えると、なんだか無性に嬉しくなったことを覚えています。




3 さまざまな制作

—- そうでした。今回は染付のお皿も展示していただきましたね(図3)。蓬󠄀田さんの制作の幅広さがうかがえます。陶芸はいつごろからなさっているのですか?



図3 陶器の展示の様子

蓬󠄀田 初めて陶芸を体験したのはもう20年ほど前です。紙やキャンバスのかわりに、素焼きのお皿に絵を描くようなイメージで制作しています。ただ私は形を作るのが得意ではなく、何を作ってもふにゃっとした形になってしまいます。
やきものの場合、描いた絵の仕上がりは窯から出てくるまでわかりません。それが楽しみでもあり、心配でもあります。

—- そして今回は、『カルトナージュ』という、紙や布で装飾した箱も展示なさっていましたね(図4)。これを制作するようになったきっかけはどんなものでしょう。

蓬󠄀田 モチーフとして集めていた柄布がたまり、何かできないかと考えていたところ、厚紙で作った箱に布を貼るカルトナージュを知りました。先ほどの染付の皿と同様、身近な生活の中で使えますし、形や大きさも自分が入れたいものに合わせて変えられます。内側に貼る布についても、外側の布と響き合う色にするか、開けた人が「意外」と感じる色にするかを考えることができ、楽しいです。



図4 カルトナージュ制作例


4 教師という立場で

—- 今は高校で美術の教師をなさっていますが、「美術」という教科を「教える」ことの難しさ、そして面白さはどんなものでしょう。

蓬󠄀田 高校では、生徒は芸術科目の一つとして美術を選択する形になります。当然ですが、選択した全員が美術関係の進路に進むわけではありませんので、美術の専門家を育てるのではなく、少しでも美術を好きになってもらえたらいいな、そういうきっかけになったらいいな、と思って授業をしています。
高校生の作品には、私にはとても思いつかない新鮮な発想や大胆な表現があります。一人一人の違いや生きてきた時間が作品として、目に見える形でできあがる場に立ち会えるのは幸せなことです。
また、美術関係に進学した生徒と卒業後に話したり、卒業生の作品展を見に行ったりするのはすごく楽しいし、この職業でしか味わえない喜びだと思います。

—- また、画家と教師の両立という問題は、どのように考えていらっしゃいますか。私が思うに、蓬󠄀田さんはそこのところは、あまり強く意識せず、自然体で仕事も制作もすすめていらっしゃるように思うのですが。

蓬󠄀田 ありがたいお言葉ですが、仕事も制作も、自然体にはほど遠い状態です…。確かに「両立させるぞ」と考えたことはなく、仕事が終わってからの時間をどう制作に生かすかを考えています。忙しいのはどんな仕事でも同じでしょうし、働いたからこそ、また制作に集中できる部分もあると思います。
大学でお世話になった先生方からいただいたお手紙にも、「頑張って制作を続けるように」とか「粘ってください」とあり、自分が小さい頃から好きで続けてきたことを、これからも続けていきたいです。





—- 最後に、今後の制作で、大事にしたいこと、挑戦してみたいことなどがあれば、教えてください。

蓬󠄀田 これからも、一つ一つ丁寧に制作していきたいです。そして平面作品以外にも、まだやったことのない工芸的な分野などにも挑戦してみたいと思っています。



図5 《白のテーブル》 2002年 油彩 F20






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第1回「福沢一郎賞」受賞者を世に送り出してから22年。受賞者の数は昨年までで252名になる。当然のことながら、受賞者の「その後」はさまざまである。海外を拠点に活動する者、美術館やギャラリーの展覧会で引っ張りだこの人気者もあれば、ひっそりと自らの愉しみとして制作を続ける者もいる。中には制作を全く止めてしまった者もいると聞く。それでも、受賞の喜びが現在までの活動の原動力になっている、と受賞者の方からことばをいただくたび、ささやかな賞も決して無駄ではなかったと思える。
蓬󠄀田は、決して華々しい活躍とはいえないかもしれないが、高校教諭をつとめながら、地道な活動を継続してきた。その制作は、描く対象のヴィジュアルに純粋に迫ろうという、至ってシンプルなものである。モティーフとの対話を愚直に繰り返し、明瞭な描画によってそのヴィジュアルを鮮やかに浮かび上がらせる。第1回福沢一郎賞受賞作《イエローテーブル》から今日の制作まで、その態度は一貫している。
自らが挑んだ100号の画面を生徒たちに見せた瞬間「やっと教師として認めてもらえるんです」と照れたように笑う画家のうちには、ひたむきに対象と画面との対話を繰り返した、その膨大な積み重ねによる確かな自負がある。ゆるがない制作によって生徒たちに画家のありよう、そして絵画のありようを示す。蓬󠄀田は疑いなく、そんな教師であり続けるだろう。
彼のもとから巣立つ子どもたちの中から、次の「福沢一郎賞」受賞者がうまれる日も、そう遠くない将来やってくるかもしれない。(伊藤佳之)


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※この記事は、展覧会終了後、ききてと作家との間で交わされた往復メールを編集し、再構成したものです。
※ 図番号のない画像は、すべて会場風景および外観






【展覧会】「PROJECT dnF」第3回 広瀬美帆「わたしのまわりのカタチ」、第4回 寺井絢香「どこかに行く」

 

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福沢一郎記念美術財団では、1995年から毎年、福沢一郎とゆかりの深い多摩美術大学油画専攻卒業生と女子美術大学大学院洋画専攻修了生の成績優秀者に、「福沢一郎賞」をお贈りしています。
この賞が20回めを迎えた昨年、当館では新たな試みとして、「PROJECT dnF ー「福沢一郎賞」受賞作家展ー」をはじめました。
これは、「福沢一郎賞」の歴代受賞者の方々に、記念館のギャラリーを個展会場としてご提供し、情報発信拠点のひとつとして当館を活用いただくことで、活動を応援するものです。

福沢一郎は昭和初期から前衛絵画の旗手として活躍し、さまざまな表現や手法に挑戦して、新たな絵画の可能性を追求してきました。またつねに諧謔の精神をもって時代、社会、そして人間をみつめ、その鋭い視線は初期から晩年にいたるまで一貫して作品のなかにあらわれています。
こうした「新たな絵画表現の追究」「時代・社会・人間への視線」は、現代の美術においても大きな課題といえます。こうした課題に真摯に取り組む作家たちに受け継がれてゆく福沢一郎の精神を、DNA(遺伝子)になぞらえて、当館の新たな試みを「PROJECT dnF」と名付けました。

今回も昨年に続き、ふたりの作家が展示をおこないます。広瀬美帆(女子美術大学大学院修了、2000年受賞)と、寺井絢香(多摩美術大学卒業、2012年受賞)です。
ふたりは福沢一郎のアトリエとで、どのような世界をつくりあげるのでしょうか。

なお、アトリエ奥の部屋にて、福沢一郎の作品・資料もご覧いただけます。


第3回
広瀬美帆「わたしのまわりのカタチ」 ※終了しました

ときに柔らかく、ときにヴィヴィッドに、いつもすぐそばにある身近なものたちを描く広瀬の制作は、確かな観察眼と、モティーフへの愛着に裏打ちされています。
画家の身近な「カタチ」の数々が、福沢一郎のアトリエいっぱいに広がります。

9月30日(金)- 10月12日(水) 12:00 – 17:00  観覧無料
木曜定休
ギャラリートーク、レセプション 10月8日(土) 15:00 – 17:00

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広瀬美帆 《マスクメロン3個入》  2016年 油彩・マゾナイト 72.7×50.0cm

 


第4回
寺井絢香「どこかに行く」

学生時代から「マッチ棒」をモティーフに描き続ける寺井の制作は、モティーフに縛られているかと思いきや驚くほど自由で、絵画の可能性にあふれています。今回の展示は新作を中心に、その絵画世界を押し広げる試みとなります。

作家公式ホームページ http://teraiayaka.jimdo.com/

10月21日(金)- 11月2日(水) 12:00 – 17:00  観覧無料
木曜定休
ギャラリートーク、レセプション 10月29日(土) 15:00 – 17:00

 

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寺井絢香 《とある冷たい日》 2014年 油彩・パネル 162.0×130.3cm