【展覧会】「PROJECT dnF」第14回 鈴木晴絵個展「移動する庭」10/16-11/1

福沢一郎記念美術財団では、1996年から毎年、福沢一郎とゆかりの深い多摩美術大学油画専攻卒業生と女子美術大学大学院洋画・版画専攻修了生の成績優秀者に、「福沢一郎賞」をお贈りしています。
この賞が20回めを迎えた2015年、当館では新たな試みとして、「PROJECT dnF ー「福沢一郎賞」受賞作家展ー」をはじめました。
これは、「福沢一郎賞」の歴代受賞者の方々に、記念館のギャラリーを個展会場としてご提供し、情報発信拠点のひとつとして当館を活用いただくことで、活動を応援するものです。福沢一郎は昭和初期から前衛絵画の旗手として活躍し、さまざまな表現や手法に挑戦して、新たな絵画の可能性を追求してきました。またつねに諧謔の精神をもって時代、社会、そして人間をみつめ、その鋭い視線は初期から晩年にいたるまで一貫して作品のなかにあらわれています。
こうした「新たな絵画表現の追究」「時代・社会・人間への視線」は、現代の美術においても大きな課題といえます。こうした課題に真摯に取り組む作家たちに受け継がれてゆく福沢一郎の精神を、DNA(遺伝子)になぞらえて、当館の新たな試みを「PROJECT dnF」と名付けました。

今回は、鈴木晴絵(​女子美術大学大学院美術研究科 美術専攻版画研究領域修了、2024年受賞)の展覧会を開催いたします。


26年間暮らした街での暮らしを離れた。そして生活は、草いきれがむせ返るような自然の中に移動した。

言葉を話すことができない兄について思考を巡らせて制作を行っていた。兄は社会の規律を守ろうとする。大概その努力は報われず、ミスをし、ズレがうまれた。そこに私は兄の中のカオスをみていた。しかし生活を馴染みのない場所に移すと私自身がズレを感じた。ままならなかった。兄を観察していた目線は、そのまま自身に当てはめることができた。
この環境を把握し、作品に落とし込む方法として紙漉きを始めた。住居の周りにある生い茂る草木の中に入り、刈り、煮て、漉くい上げて乾かした。
漉き枠の大きさに揃えられ、紙に姿を変えた自然の一部は、兄に引けを取らない私の中のカオスの痕跡である。

— 作家のことば


 

 

《透明人間XXL》(左手前)、《あなたのための森》2023年
女子美術大学卒業・修了制作展より

 

 

《言葉の部屋》(手前)、《STARS》2024年
個展「STARS」より
 
 

鈴木は、学生時代から「生活の中のカオスと規律」をテーマに制作をおこなっています。主要なモチーフとなってきたのは、障害を抱える兄と彼にまつわるもの・ことで、日常的に体験する感覚と社会とのズレ、そこからうまれるさまざまな思考が折り重なり、版画という技法、そしてその支持体である紙との対話をとおして、作家の表現はうみだされてきました。
この春から制作の基盤を横須賀市の芸術家村に移した作家は、これまでのテーマを踏襲しつつ、新たな視点で、新たな素材と表現に取り組んでいます。住居の近くで採集した草花からつくられる「紙」が織りなすかたちと色は、自然のなかで繰り返される生命と、作家自身の造形行為の「反復」を象徴しています。
今回の展示は、これまでの制作で来し方をふりかえり、新作で開拓しつつある新たな境地を示す意欲的な試みとなりそうです。この機会にぜひごらんください。

◯鈴木晴絵(すずき・はるえ)
1998年神奈川県生まれ。2024年、女子美術大学大学院美術研究科美術専攻版画研究領域修了〈福沢一郎賞〉。2025年春より、横須賀市田浦泉町のアーティスト村「YOKOSUKA ART VALLEY HIRAKU」に入居し活動中。

発表歴
・個展
2025 「草いきれ、紙」 TENT Naruse, 東京
2024 「STARS」 ART55プロジェクト、東京
2023 「あなたのための森」 ブックカフェ elever、東京
2021 「Re:MIX 展」 Gallery N.、東京

・グループ展・公募展
2024 「第47回五美術連合卒業・修了制作展」、国立新美術館、東京
   「6人のPrinters」、弘重ギャラリー、東京
   「ART AWARD TOKYO MARUNOUCHI 2024」、行幸地下ギャラリー、東京
   「紙愛づるものたち」、gallery 檜 B・C、東京
   「CAF賞2024 入選作品展覧会」、代官山ヒルサイドフォーラム、東京
2023 2人展「枠の中と外」、女子美術大学、神奈川
   「第48回全国大学版画展」、上田市立美術館、長野
2022 「JOSHIBISION2021」、東京都美術館、東京
2021 企画展「1945×2021 止まった時代の主人公たち」無言館、長野
   「TOBA artproject2021 お寺覧会」、三重県鳥羽市安楽島
   3人展「Re:MIX 展」、女子美術大学、神奈川
2020 「第45回全国大学版画展」、町田市立国際版画美術館、東京
2019 「鳥羽うみアートプロジェクト」、三重県鳥羽市安楽島

受賞
2024 「女子美術大学卒業・修了制作展」買い上げ賞・美術館奨励賞、福沢一郎賞
    「CAF賞2024 入選作品展覧会」最優秀賞
2023 第48回全国大学版画展 優秀賞
2021 「女子美術大学卒業・修了展」優秀賞・買い上げ賞


会期:2025年10月16日(木)- 11月1日(土)
※木・金・土曜日開館 
13:00 – 17:00 観覧無料