【展覧会】「福沢一郎と山下菊二 師弟は時代とどう向き合ったか」 会場風景

開館20周年の展覧会 「福沢一郎と山下菊二 師弟は時代とどう向き合ったか」 の会場風景をご紹介します。

 

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なんといっても、今回は福沢一郎以外の画家の作品が、記念館開設以来初めて!展示されたのです。そしてそれが、福沢とゆかりの深い山下菊二であることは、私たちスタッフにとって大きな喜びです。
まずは、福沢の1《寡婦と誘惑》(1930年、写真左)。「これ、80年以上前の絵ですか!?」と驚かれる方が多いのは、決して修復がしっかりされているからだけではありません。今なお新鮮さを感じる面白い作品だと思います。
その右にある山下の《日本の敵米国の崩壊》は、《寡婦と誘惑》など福沢の滞欧作が飾られたアトリエで制作されたといいます。およそ70年の時を経て、このふたつの作品がふたたび出会ったことになりますね。さまざまな敵国アメリカのイメージ(中には?と思うものもありますが…)が描きこまれています。当時は戦意高揚のための絵として展覧会に出品されたのでしょうが、今見るといろいろなことを考えさせられる、これまた面白い絵です。

 

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階段下のスペースには、山下の初期作品《裸婦》(1939年、写真中央)と福沢の《フクロウ》(1939年頃、写真右)。ほぼ同じ頃に描かれたふたつを並べてみました。ところで、山下はフクロウ好きとして知られていますが、今回は福沢のフクロウが登場しています。これは、ふたりの関係を考えるうえでとても面白い作品なのです。詳しくは、ご来館のうえ、作品横の解説パネルをぜひお読みください!

 

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さて、ここでアトリエ奥の小部屋に入っていきましょう。ここにはふたりの50年代末の作品を展示してあります。まずは福沢の《網にかかった人》(1959年)。いびつな形の人体が、石膏を盛り上げたところに凹んだ線で描かれています。50年代末、福沢はこのように石膏や板、砂などを使って、立体的な画面作りを試みていました。日本で「アンフォルメル旋風」が吹き荒れた後のことです。

 

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同じ頃、山下もまた、ざらざらした絵肌を画面づくりに取り入れたり、不定形のイメージを活かしたりと、「アンフォルメル」に影響を受けたような表現を試みています。《黒いクチバシ》(1959年)にも、そんな山下の試みのあとが見られます。

 

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さて、この小部屋にあるガラスケース内には、福沢一郎のスケッチが展示されていますが、これらはすべて、福沢が山下に贈ったものです。《国引き》(1943年)という作品のデッサンなどは、山下がモデルを勤めていると自分で書き込んでおり、さらに日付まで入っているという、思い入れの強さを感じさせるものです。また、その左にある1976年に山下が福沢に宛てた手紙には、山下のアトリエへのまことに詳細な地図が同封されており、ここにも師への思いの深さが強く感じられます。

 

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小部屋を出て、書斎両脇の壁に移りましょう。ここには福沢《自由か死を》(1965年、写真左)と、山下《葬列(ベトナム)》(1967年、写真右)を展示してあります。60年代は国外ではベトナム戦争やアメリカでの公民権運動があり、国内では学生運動がさかんに行われるなど、政治や社会に対して強い疑念や不信が向けられた時代でもありました。福沢は滞在先のニューヨークで、デモに参加するアフリカ系住民を題材にして、鮮やかな色彩と力強い筆遣いにより多くの作品を制作しました。また山下は、足袋を履いた骨だけの足によって、戦争に追従する日本の政府のすがたを象徴的に描きました。時代をそれぞれの視点で見つめたふたりのまなざしが、これらの作品に如実にあらわれています。

 

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アトリエ北側のコーナー(写真右側)には、ふたりの70年代の作品を展示しました。この時期福沢は「地獄」や「餓鬼」をテーマに多くの作品を制作しており、今回は《蛾を食う餓鬼》(1972年、写真右から2番目)を展示しています。素早い筆致で描かれた餓鬼は、明るくユーモラスな姿をみせています。山下の《鶏群地獄〈水声〉地獄絵〉(1973年、写真右端)は、絵具の滲みから人や鳥の顔が浮かび上がってくるようで、少し不気味で恐ろしげな印象を受けます。
虐げられながらもしぶとく生きる餓鬼の生命力を描いた福沢と、謎めいた社会という暗闇にうごめく人々の愚かしいすがたを描いた山下。ふたりの画風や視点は全く対照的です。しかし不思議なことに、となりどうしに展示しても、ふたりの作品はさほど違和感を感じさせず、かえって互いを引き立てるような効果を持っているように思えるのです。これが、40年以上続いた師弟の絆のなせるわざなのでしょうか。
ぜひこの充実した展示空間を、ひとりでも多くの方々に楽しんでいただきたいです。

 

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福沢一郎記念館は、展覧会会期中の日、月、水、金の開館となります。
皆様のお越しをお待ちしております。
展覧会詳細は、→こちらから。